Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
1月より、鹿児島県与論島で、月1全3回の、音のある風景を探求するワークショップをやっている。「Muuru」(与論方言で、みんなの意)という島の南東に位置する大金久海岸に現在建設中の施設内のカフェのBGMをどうするかという相談があり、そこから派生して、島の音を録音して、何か作ってみようという企画である。与論島は、沖縄県那覇市から飛行機で30分足らずで着くが、シーズンオフのこの時期は50人乗りのプロペラ機1日1便のみ。人口約5000人、島の外周は23.7kmで、東京港区とほぼ同じ大きさの島だ。第二次大戦後アメリカの統治下におかれ、1953年に、奄美群島と共に日本本土に復帰し、1972年の沖縄返還前まで、日本最南端の島だった。この頃、一気にリゾート開発が進み、それまで数軒だった宿泊施設が、ピークの1979年には100ヶ所近くまで激増したが、現在は最盛期の3分の1以下にまで縮小した。観光のメインとして、大金久海岸から約1.5km沖に、百合ヶ浜という、干潮時にしか姿を見せない砂浜があり、この時期は出現しないのだが、近くまで船で行くと、すぐ側をウミガメが泳いでいたりする、絶景スポット。
すぐそばを泳ぐウミガメ
世論島の音とは何だろうと、まずは大金久海岸で波音を録ったり、嵐のPVのロケ地にもなったウドノス海岸や、島で一番標高の高い与論城跡、サトウキビ畑、この時期に越冬のために沢山居る「ピィッ、クゥィー!」と鳴くサシバ、芭蕉布を織る機織りの音、ウニで出来た風鈴、居酒屋での三線の演奏など手当たり次第に録音する。フィールドレコーディングは、後に録音したものを聞くと、その時の様子を鮮明に思い出す。ビデオを録画するより、静止画と録音の方が、記憶の情報量が多いように思う。ワークショップに参加してくれている高校生にも、思いつく島の音を録音してもらう。フェリーの汽笛音や、砂浜を歩く音、鳥の鳴き声など、様々な音が集まってくる。これらの音を並べて、整音して、コピーしたり、重ねたり、その音を聴いた上で、楽器を演奏してもらったり、編集を重ねていくことで、現実から切り取った音に何かしらの意味が生まれる。
イタリアから日本に遊びに来たミュージシャンがこんなことを言っていた。「日本人は本当ジャズが好きだよね。どこに行ってもジャズがかかってて」。確かにそうかもしれない。大手チェーンのカフェに入るとよくジャズやボッサノヴァがBGMでかかっていて、その多くは有線放送のチャンネルから選ばれ、そのカフェの専用チャンネルが設けられたりしていて、素晴らしい選曲だったりするのだが、チェーン店のカフェで、こんな名曲をここで聞きたくない、という気分になることが多々ある。何年も前の話だが、ホームセンターで、エリス・レジーナがかかっていた時は、大好きな曲なのにここで聞く曲じゃないでしょ、と違和感を感じた。逆に100円ショップで、イージーリスニング風の歌のない歌謡曲がかかっていると、こういうのがいいんだよと和む。しかし、これは選曲家をやっている職業病的なことなのかもしれない。リミニのレストランに入った時に、マリオ ビオンディのBlack Shopという曲がかかっていて、彼の美声に耳を傾けていると、1曲終わったところで、またイントロのリムショットとウッドベースが始まった。ん?と思いながら、2度目を聞き終わる。そして、3回目のイントロが始まった。これは何か店の意図なのか?今日のテーマ曲的なことなのか?他の客は何とも思わないのか?と様々な疑問が湧き上がる。4回目が始まったところで店の人に、これ、4回目を聴いているんですが、、、と言うと、店の人は全く気づいていなかった様子で、単純にリピート設定の誤りだったよう。他の客も気にしていない様子で、BGMって意外と誰も聴いていないのだなと思った。どんな名曲でも続けざまに聞かされたら、それは苦行になってしまう。
たまに店のBGMの選曲を頼まれたりすることがあるが、これがどんなに素晴らしい内容だったとしても、毎日それを聞き続けて働かなければならない従業員は可哀想だ。もしやるのであれば、始業から終業まで例えば8時間分の選曲をしないとだめだと思う。それだって毎日聞き続けたら飽きてしまう。あるテーマに沿って、8人の選曲家が1時間ずつ選曲するとか、もうそういうのはAi プレイリストに取って代わられるのか?
選曲というと、楽曲が切れ間なくずっと繋がっているDJミックス的なものが一般的だが、与論島のこの美しい場所に、果たして音楽は必要なのか?現地で採集した音を聴きながら、普通のスピーカーでなく、壁や窓に貼って音を出す振動スピーカーを現場で鳴らしてみたり、機能性を考えつつも、聴かない音楽とは何だろう?と新しいミューザックの在り方を考えている。