トイロ

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Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)


映画「かそけきサンカヨウ」公開に寄せて
ゲイリー芦屋 photo01

 10/15に音楽を担当しました今泉力哉監督「かそけきサンカヨウ」が公開されました。この映画は「自分史上いちばん古い記憶って何か憶えてる?」という問いかけで始まります。
 多くの人は幼児期健忘で3歳以前の記憶が残りにくい傾向があるようです。僕も自分の最初の記憶について時々考えることがあります。写真として残っている自分の姿はそれこそ乳児だった頃の物から見ることが出来ますが、当然その写真を撮られた時の記憶はない訳です。幼稚園にあがった頃の写真でも自分の実体験としてリアルに思い出せるイベントは限られます。ただ、そんな中で音楽に纏わる記憶だけは鮮明に思い出せるのは我ながら驚きというか、やはりそれなりに「執着」があったからなんでしょう。

 自分の中で最も古く感じている記憶は両親と車でどこかに移動してる夜の車内。後部座席に寝かされているのか、見えるものは頭上を流れすぎていく道路照明灯だけ。小さく開けた窓から吹き込んでくる風の匂いが東京の夜の空気の匂いであることを感じている…そんな場面。この独特の風の匂いは今でも夜の東京の匂いとしてふと身近に感じる瞬間があります。この匂いの正体は一体なんなのかずっと気になっていて、地方でこの独特の風の匂いを感じたことはないのでもしかしたら下水の匂いが道路の上に上がってきてるものなのかもしれない…と勝手に解釈しています。この車の記憶のポイントは道路照明灯と東京の夜の匂いともう一つ、その時の車に搭載されていた8トラックのカーステレオから流れていたニーノ・ロータ「太陽がいっぱい」のテーマ曲。サントラではなくて、よくあるイージーリスニングの映画音楽テーマ曲集的な演奏だったのでしょう。なぜか「太陽がいっぱい」だけ記憶に残っていたのです。
 後年(おそらく小学生くらい)、やはりイージーリスニング映画音楽のレコードの中の1曲としてこの曲と再会した時に、当時の車の中の記憶と繋がって懐かしく感じたことを覚えています。

 二つ目は日本武道館で行われた木馬座公演でのケロヨンショウ。ケロヨンは藤城清治氏主催の木馬座のキャラクターの中でもっとも人気のあったカエルの着ぐるみキャラで、地上波の冠番組や映画まで制作されるほど当時の子供に人気がありました。僕も幼児期にケロヨンのレコードを小さなターンテーブルで一日中ヘビロテしていた記憶があるくらい大好きなキャラクターでした。そこに至る経緯は憶えていないのですが、幼稚園時代に親に連れられて日本武道館で行われたケロヨンショウを見に行ったのです。ケロヨンショウは武道館のアリーナ部分にミュージカル映画「巨星ジーグフェルド」のようなラセン状の舞台が特設されその上をスポーツカーが回っているという大掛かりなセットで、そのあまりのインパクトにずっと心に残っていたのですが、ケロヨンの公式ツイッターで当時の写真として紹介されたのを見て自分の記憶が正確だったことを知りました。ショウの後、階段を降りて1階アリーナでケロヨンと握手できるファン交流イベント的な時間があって親に連れられてケロヨンと握手…する直前で「怖い!」と大泣きしたところまでセットでその時の光景を憶えています。後年、ケロヨンの中に入っていたのは藤城清治さんの奥様だったと聞いてちょっと胸が痛くなりました。
 面白いのはこの話をヒゲの未亡人で現在活動を共にしている岸野雄一さんに話した時に「おれもその時見に行ったよ!」とのこと。ステージセットが特徴的なのでかなりの確率で同じステージを見た可能性が高く、「運命とは!」と喫驚したものです。

みなさんの初めての記憶はどのようなものですか?そしてそれは現在の自分にとってどのような意味のあるものなのでしょうか?

おまけ:かそけきサンカヨウこそこそ話(軽いネタバレ含みます)

 かそけきサンカヨウのヒロイン陽の父、井浦新さん演じる直の職業は映画音楽の作曲家で、これは原作にはない映画オリジナルの設定。というわけで劇中で直が自宅の仕事部屋で仕事をするシーンがあるのですが、この自宅の仕事場は僕の自宅スタジオのセッティングも参考にされているようです。デスク周りや照明、2面モニターで一つがラッシュのプレイバック用、もう一方がDAW(=音楽ソフト)用になってる辺りに個人的には親近感を感じます。映っている機材のうち唯一、フィジカルコントローラーのKORGのnano KONTRLO Studioはうちで使っている私物を持ち込みました。映画音楽を作る人にとってフィジコンは絶対の必需品なので。直が使っているDAWは我が家と同じMOTUのDigital Performerで、これはリアルにその場で映像と音楽を同期させて実際に作っている状態を再現しています。この撮影時の指導・監修・セッティングで僕も撮影現場に赴きマニピュレートしていました。つまりこの直の仕事場のシーンのフレームの外には僕がいた訳です。
 余談ですが、僕の趣味は撮影現場の見学です。映画好き、ドラマ好きなら監督の演出を生で見てみたいとそりゃ思いますよね。そんな訳で用もないのに押しかけるほど現場が好きで、色々な監督の撮影現場にお邪魔しては時々ウチトラとしてエキストラ出演したり…なんてことも。黒沢清監督の「ニンゲン合格」ではガチで出演している生演奏シーン以外にも釣り堀の客としてワンカット、中田秀夫監督の「ラストシーン」では東映の撮影所内を歩きながらプロデューサーと打ち合わせしてる作曲家的なテイで2~3秒、今泉組では「愛がなんだ」中盤の中目黒のクラブシーンではDJとして自分が作ったテクノ曲(サントラ未収録)を回してる役で数フレーム出演している筈ですが、帽子のツバくらいしか見えていませんね。今後もプロ・ウチトラ要因として、感染症対策に十分留意した上で積極的に出演させて頂きたく思っていますので是非ご検討くださいませ(笑)。


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