トイロ

ココロ

Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)


ジョン・ケージ再考
Gak Sato

没後30年にあたる2022年。11月26、27日に京都芸術センターで、ジョンケージとデヴィッドチューダーの作品を演奏するコンサートに参加しました。

photo01 photo02

2012年までに5年続けて ジョンケージ生誕100周年カウントダウンコンサート という企画が行われ、最後の年の2012年に、同じく京都芸術センターで参加してから、早10年。過去にも何度か、ケージ作品を演奏する機会に恵まれましたが、ケージに関わるのは心構えが必要です。それは、どの音楽にも似ていない、根本的なルールが違う、譜面に全て書いてあるようであって、具体的な説明はされていない。意図的なのか、どう演奏すれば解らなかったり、不可能では?というような、辻褄が合わない事がある。演奏時には奏者の判断に任されるが、即興的な自由度は無い。演奏する前に、譜面に書かれている事を読み解くのに時間がかかるが、導き出した答えが正解なのかどうかもわからない。正解があると考えることをやめるところから始まる。一聴すると、過剰に音が多かったり、少なすぎたり。現代音楽って訳解らなくて苦手なのよという人も多いと思う。解らないってなんだろう?解らないはこれから解るかもしれない可能性があって楽しい。
理解出来ないものを見聞きすると居心地が悪かったり、腹が立ったりしますよね。
ケージはこんな事を言っています。

-感情を持つ事は構いません。ただし、その奴隷にならない事です。

ネガティヴな感情は、外的な要因ではなく、自分自身が作り出しているということ。
逆に言えば、感動や幸福感も、自身の感情の奴隷になっているとも言える。
ケージは否定も肯定もしない。
慣習に囚われない音楽を作り続けていた人がケージです。
多様化する世の中で、AでもBでもなく新しくCという考え方、みたいな話をよく耳にしますが、ケージは、AにもBにも、Cにも属さない、最初からXとかYの話をしていると思います。
アナーキストとか、半権威主義者と言われていますが、どこにも属していないから、反〇〇という感じがしない。既成概念を壊すではなく、元々ないのだ。

-思考の一貫性に関する限り、私はむしろ一貫性のなさを好む。
-私は自分のやっていることに慣れぬようにしている。
-もし自分の仕事が受け入れられたなら、私は受け入れられない所まで進まなければならない。
-最高の目的とは、全く何の目的を持たない事だ。

という様に、ケージを相手にすると、暖簾に腕押し、という感じで、するりとすり抜けられてしまいます。
その暖簾を細心の注意を払って押してみたり、肌触りを楽しんでみたり、触らずにくぐってみたり、遠くから長い棒で突いてみたり、風を送ってめくってみたり、そんな心持ちで楽しむ音楽。
ケージの曲を聴いたり、演奏する際には、過去の体験や知識などに囚われず、何も無い状態から取り組む事が大事だと思います。そこから生じる疑問、違和感に真摯に向き合うこと。訳わからない事が、少しだけ解った気がしたり、自分なりのとりあえずの解決策を見出したり。

 今回、全18曲、僕自身が関わった曲を例に挙げると、1939年の作品、Imaginary landscape No.1 という曲は、ピアノとチャイナシンバル、ターンテーブル2台を用いた曲で4人で演奏します。テストトーン(435hzと84hzのサイン波二つが録音されたビクター フリクエンシーレコード84522Bと、84519Bというレコード、それと、84522Aという4273hzから20hzまで連続下降していくレコードを使用して、譜面の指示通りに33回転と78回転を切り替えながら、このテストトーンを再生します。テンポは60で6/4拍子での演奏なので、1小節は6秒。全部で70小節あるので、譜面通りに演奏すれば7分の曲です。しかし、譜面には曲のトータルは6分と書いてある。これはケージの表記の間違いなのか?それともテンポ60を別解釈すべきなのか?現在SP盤のビクターフリクエンシーレコードはまず手に入らないので、指定のサイン波のオーディオファイルを制作し、ダブプレートを2枚制作してもらい、78回転再生可能なターンテーブルを2台探す所から始まります。1939年に書かれたこのアナログライクな電子音楽は、現在の耳で聴いても斬新な響きだと思います。本来ならば先日の演奏バージョンを聴いて頂きたい所ですが、このレコードのリンクを。

One7という曲では、予め12種類(譜面上出てこないものもあるので実際は10種類)の音を用意して、タイムブラケットと呼ばれる、指定された時間帯(例えば0:00〜1:15の間で2の音を出し始め0:55〜2:05の間で止める)で、指定された番号の音を出していく曲ですが、この10種類の音の選択は自由なので、演奏者によって全く違う内容になります。生音でも電子音でも良いし、録音された音でも良いので自由度は高いですが、音を出すタイミングと順番は、緩く且つ厳密に設定されているので、ストップウォッチと譜面をしっかり読みながら、2つの音が同時に鳴ったり、ほぼ一緒に音を止めたり演奏したり、という作業が30分続くので、演奏者にとっては緊張度の高い曲です。

Radio Musicという、譜面上の指示を基に、時間軸を調整し、AMラジオのチューニングをいじって音を出す(今回は4人で)ものなど、楽器の演奏技術は必要ない曲も多いので、実際にやってみると面白いと思います。いやーでも音聞いてもさ、なんか退屈じゃん?って思う方、ケージはこんな文章を残しています。(indeterminacy 75より)

-禅の世界では、こんな事を言います。
もし、2分経っても退屈だったら、もう4分試して下さい。それでも退屈だったら、さらに8分、16分、32分、、。そして、気づくでしょう。それは退屈ではなく、とても面白いものだと。

この世界に足を踏み入れると、調性のある音楽が聴けなく/作れなくなったりしたものですが、最近は切り替えが出来るようになりました。ケージに盛られたキノコの毒(本人は全くそのつもりはない)は、じわじわ浸透して抗体が出来上がったのかもしれません。

photo03

写真はRainforest IVの本番中。吊られている各オブジェに振動スピーカーが仕込んであり、一人4音源、4人で16のオブジェに対して音を出し、各オブジェには、コンタクトマイクが貼ってあり、出音を更にコンタクトマイクで拾って、ミキサーに送り、4本のスピーカーで再生。各人、用意した音源を変化させることで、空間の響きが常に変化していく。

program A(11/26)
Part1: David Tudor : Rainforest IV (1973)
Part2 :
Music for Marcel Duchamp (1947)
Inlets (1977)
One7 (1990)
Winter Music (1957)
Song books (1970)
Sculptures Musicales (1989)
Ryoanji (1983)
Branches (1976)
Ophelia (1946)
program B(11/27)
Part1: David Tudor : Rainforest IV (1973)
Part2 :
Bacchanale (1938-1940)
Imaginary Landscape No. 1 (1939)
Four3 (1991)
Experiences 2 (1948)
Fontana Mix (1958)
Cartridge Music (1960)
Radio music (1956)
Suite for Toy Piano (1948)
森本ゆり,恵良真理, Haco,ニシジマ・アツシ,村井啓哲,吹田哲二郎,竹村延和,Gak Sato

記事一覧
2022.11.30 Gak Sato / ジョン・ケージ再考
2022.11.23 加藤賢崇 / 「かとうチェンソーです」
2022.11.16 三宅治子 / BBと後遺症
2022.11.09 永田太郎 / 最近聴いてよかったもの。2022秋
2022.11.02 藤本功一 / カタールワールドカップアジア最終予選と川崎のバンディエラ
2022.10.26 冷水ひとみ / ライブの重み
2022.10.19 松前公高 / ペットボトルの蓋
2022.10.12 荒木尚美 / もう一人の理想の自分
2022.10.05 辻林美穂 / しんにょうの点 1つか2つか問題
2022.09.28 薄井由行 / 追加CD2種紹介
2022.09.21 ゲイリー芦屋 / 続・趣味について
2022.09.14 谷口尚久 / インド
2022.09.07 クニ杉本 / 「clockmusic」配信終了のお知らせ
2022.08.31 横川理彦 / 機械の音楽
2022.08.24 郷拓郎 / アクロス・ザ・メタバース!
2022.08.17 Gak Sato / ピエトロ・グロッシやってみた
2022.08.10 加藤賢崇 / 自分の曲なのに?
2022.08.03 三宅治子 / ゴシップガール
2022.07.27 永田太郎 / 最近聴いてよかったもの。アゲイン
2022.07.20 藤本功一 / 私語
2022.07.13 冷水ひとみ / 元気な人
2022.07.06 松前公高 / Re:趣味について
2022.06.29 荒木尚美 / 年をとるということ
2022.06.22 辻林美穂 / 利き手と生き方って関係ある?
2022.06.15 薄井由行 / CD2種紹介
2022.06.08 ゲイリー芦屋 / 趣味について
2022.06.01 谷口尚久 / 「キエフの大門」
2022.05.25 クニ杉本 / 配信開始!Coba-U「SF」「ハイファイ」「星空と神様 ambient night mix」解説。
2022.05.18 横川理彦 / 映画音楽あれこれ
2022.05.11 郷拓郎 / 記憶と夢と私とハイボール
2022.05.04 Gak Sato / ヴェネチア ビエンナーレ
2022.04.27 加藤賢崇 / お色気で輝く音楽
2022.04.20 三宅治子 / 写真について
2022.04.13 永田太郎 / 最近聴いてよかったもの。
2022.04.06 藤本功一 / 本日のどうもこうもないか
2022.03.30 冷水ひとみ / リアルタイムのリアル
2022.03.23 松前公高 / >Re:
2022.03.16 荒木尚美 / 影響を受けた作品
2022.03.09 辻林美穂 / ☆欲しい家電 BEST3☆の答え合わせ
2022.03.02 薄井由行 / 普段愛用している文房具4点の紹介
2022.02.23 ゲイリー芦屋 / 『渚の天使』再考~前篇
2022.02.16 「Colors」連続インタビュー#3
2022.02.09 「Colors」連続インタビュー#2
2022.02.02 「Colors」連続インタビュー#1
2022.01.26 谷口尚久 / 金管楽器など
2022.01.19 クニ杉本 / 手元に残しておきたい機材④ ~MU-TRON III+
2022.01.12 横川理彦 / デレク・ベイリーと落語
2022.01.05 郷拓郎 / 本物の偽物(または偽物の本物)
2021.12.29 Gak Sato / 作曲しない
2021.12.22 加藤賢崇 / トイロとトロイ
2021.12.15 永田太郎 / 2021年に良く聴いた音楽
2021.12.08 藤本功一 / 初期衝動
2021.12.01 三宅治子 / 貝のはなし
2021.11.24 冷水ひとみ / 未来がきた! 感涙モノのiPad楽器
2021.11.17 松前公高 / 大阪、渡し船の旅
2021.11.10 荒木尚美 / Dreams Stay With you
2021.11.03 辻林美穂 / 変な仕事をしていた話
2021.10.27 薄井由行 / 手にした楽器や機材紹介と、その当時の記憶を辿る作業 その2
2021.10.20 ゲイリー芦屋 / 映画「かそけきサンカヨウ」公開に寄せて
2021.10.13 谷口尚久 / 1971
2021.10.06 クニ杉本 / 手元に残しておきたい機材③ ~ROLAND RE-201 Space Echo
2021.09.29 横川理彦 / 私は放送委員長
2021.09.22 郷拓郎 / 時代の見える機材遍歴の一例
2021.09.15 Gak Sato / 住処の話
2021.09.08 加藤賢崇 / テクノ・ウエスト・サイド・ストーリー
2021.09.01 三宅治子 / 松前さん/マフィンズ/マフィン
2021.08.25 永田太郎 / バックアップ
2021.08.18 藤本功一 / ある夜のありきたりな話
2021.08.11 冷水ひとみ / 幻の ”一弦フェスタ”
2021.08.04 松前公高 / 動画編集をやってみた!
2021.07.28 荒木尚美 / スティービー・ワンダー
2021.07.21 辻林美穂 / ☆欲しい家電 BEST3☆
2021.07.14 薄井由行 / 手にした楽器や機材紹介と、その当時の記憶を辿る作業 その1
2021.07.07 ゲイリー芦屋 / たった一人で音楽をやっていた頃の思い出
2021.06.30 谷口尚久 / 連想
2021.06.23 クニ杉本 / 手元に残しておきたい機材② ~YAMAHA CS01
2021.06.16 横川理彦 / 愚かなり我が心(My Foolish Heart)
2021.06.09 郷拓郎 / そういえばボーカリストだった
2021.06.02 Gak Sato / なにかに似ている
2021.05.26 加藤賢崇 / 「さてテレビでクイーン見るか。スマホ持って」
2021.05.19 三宅治子 / ヨーロッパ盤レコード店 パテ書房のはなし
2021.05.12 永田太郎 / N君のこと
2021.05.05 藤本功一 / 「カレー」
2021.04.28 冷水ひとみ / バロックオペラと鳥の歌
2021.04.21 松前公高 / 究極のアナログシンセサイザーが登場か?
2021.04.14 荒木尚美 / ジミー・ペイジと中二病の私
2021.04.07 辻林美穂 / 100%受け身の音楽ライフ 〜バブみから厨二〜
2021.03.31 薄井由行 / 死に馬にハリと没後の春
2021.03.24 谷口尚久 / 苺、声、記憶、移調など
2021.03.17 ゲイリー芦屋 / 再考『筒美京平・マイ・ベスト10』
2021.03.10 クニ杉本 / 手元に残しておきたい機材 ~YAMAHA VSS-200
2021.03.03 横川理彦 / 音を聴く話
2021.02.24 郷拓郎 / 私と共感覚 ~私に懐くイロ~
2021.02.17 Gak Sato / 音を消す
2021.02.10 加藤賢崇 / 2021年に必ず知っておきたい音楽、教えます
2021.02.03 永田太郎 / 2020年に良く聴いたアルバム10枚
2021.02.03 三宅治子 / 台所で聴いてる音楽
2021.01.27 藤本功一 / 2020年に公開された映画やドラマから青春っぽいやつをご紹介
2021.01.27 冷水ひとみ / 2020年 終わりと始まりの凝縮点
2021.01.20 松前公高 / 2020年にハマった事!
2021.01.20 荒木尚美 / 2020年はひたすら眠かった
2021.01.13 辻林美穂 / 2020年に観たYouTubeチャンネル
2021.01.13 薄井由行 / 2020年にふと聴いてみて印象に残った5曲
2021.01.06 クニ杉本 / 我的2020年
2021.01.06 ゲイリー芦屋 / 2020年 ヨカ曲探しの旅の備忘録
2020.12.30 谷口尚久 / 2020年を振り返って
2020.12.30 Gak Sato / 2020年にリリースされたアルバムより
2020.12.23 郷拓郎 / 個人的に2020年を彩った5曲
2020.12.23 横川理彦 / 2020年は、これを聴いていた ベスト5