Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
「憧れの国はどこ?」
100人ほどの大学生にそう尋ねてみたが、誰ひとり「アメリカ」とは答えなかった。時代が変わったと感じる。
自分が初めて訪れた外国は、アメリカ西海岸だった。そして、その翌年にはロサンゼルスで暴動が起きた。
今年もまた、ロサンゼルスでデモや暴動が起きているという。5年ほど前、レンタカーであちこち走り回った場所だ。その時のことを、ふと思い出したので書き留めておこうと思う。
宿泊先として頼りにしていた友人の家が、家主の急な帰省で使えなくなってしまった。仕方なく、Airbnbで宿を探すことにした。
1. 西ハリウッド
住所を頼りに向かうと、そこは長屋の一角だった。家主は同い年くらいの白人男性。玄関を入ると狭いリビングがあり、右奥のベッドルームを使っていいと言う。彼自身は、リビングのソファベッドで寝るらしい。
バスルームに行くには、彼が寝ているリビングを通らなければならない。ちょっと気を遣う構造だ。
「俺はアーティストなんだ」と自己紹介され、頼んでもいないのに作品を見せられた。空き缶を切り開いたり、ハンガーを使ったりして作られたカラフルなオブジェ。壁にも、廃材を使った奇妙な飾りがたくさん掛かっている。
「母親は、若い頃ニューヨークに住んでいて、俺の生物学的な父親はジョン・レノンなんだ。だから俺には才能がある」とも言っていた。
夜になると、裏にあるバーから『ホテル・カリフォルニア』が繰り返し聞こえてきた。
2. トルカ・レイク
次に泊まったのは、ヒスパニック系の家庭。部屋には誰も見ていない巨大なテレビがあり、通販番組がとんでもない大音量で流れている。家主は中年のシングルマザーで、奥の部屋には巨漢の息子がいた。
もうひとつの部屋には、シャイなフランス人の若者が間借りしていた。「マーベルの仕事がしたくて、ここでバイトをしながらチャンスを狙ってる」と話してくれた。キャラクターやストーリーを考えているらしく、スケッチブックに描いたイラストを見せてくれた。もうこちらに来て3年くらい経つらしい。フランスにいる家族や友人は楽しみにしているだろうか。それとも心配しているのだろうか。
夜中までテレビがつけっぱなしだったので、こっそり音量を下げたが、いつの間にかまた大音量に戻っていた。
3. カルバー・シティ
いくつかの宿を経て、やはり安宿は安宿だと学び、少し高めのカルバー・シティの家を予約した。
家主は白人の女性で、到着したら仕事に出ていて不在だった。キーボックスの番号を伝えられ、自分で鍵を取り出して中へ入るように電話で言われた。どんな感覚なんだろう。見知らぬ人が、自分のいない間に自分の家に入ってくるというのは。
玄関を開けて家に入ると、大型犬に出迎えられて少し驚く。裏庭にはジャグジー付きのプールがあり、隣家からは子どもたちの遊ぶ声が聞こえる。どう見ても、一人暮らしには贅沢すぎる間取りだった。
使っていいと書き置きのあったベッドには、女性らしい寝具が整えられていた。
夕方、家主が帰宅。少し話をすると、以前はソニー・ピクチャーズで働いていたが、今は少し離れた会社で経理の仕事をしているらしい。きっと高給取りなのだろう。
一緒に犬の散歩に出かけ、近所の人たちと立ち話。なんの変哲もない小さな平屋の家が売りに出されていて、価格は1億円を超えている。「高すぎじゃない?」と訊くと、「でも絶対値上がりするから、買えるなら買うべきよ」と、みんな口を揃えて言う。
何泊かした最後の朝、家主が電話で誰かと口論していた。話の内容からすると、別れたパートナーとのトラブルのようだった。
そういえば、玄関には子どものおもちゃや、虹の形をした飾りが無造作に置かれていた。別れた女性が養女を連れて家を出たのかもしれない。もしかしたら違うかもしれない。本人に聞くことは、当然できなかった。
Airbnbでは、さまざまな家庭の暮らしを垣間見ることができて興味深い。でも、もうお腹いっぱいです。
P.S. 先週、横川さんがスライやマイルスについて書いていたのを読み、これが聴きたくなりました。