Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
賃貸物件を探している。
しかし、地域を絞って探しているからか、なかなか条件に合う部屋が見つからない。こうなってくると、物件探しの期間はどんどんと長くなり、必然的に沢山の不動産会社の人たちと知り合うことになる。
そんな不動産会社の人たち、おおむね一般的なキャラクターの人が多いのだが、まれに個性あふれるちょっと変わった人とエンカウントすることがある。最初は「おっと」と思ったりすることもあったが、最近は「それもまた物件探しの醍醐味のひとつ」と考えるようになった。物件を探しながら面白い人とも出会えるのは一粒で二度おいしい。人生は豊かな方がいい。
そう筆を進めながらまず思い出すのは、検索サイトからの問い合わせをきっかけに知り合ったAくん。若いのに物腰がやわらかく仕事も丁寧できめ細かい。風貌から言葉遣いに至るまで好青年と呼ぶにふさわしい人物だ。目当ての物件を見つけ内見の申し込みをし、店舗へと出向くと、早々に内見へ向かうための車を出してくれた。その車中、彼に質問をする。「今までで一番大変だった仕事ってなんですか?」。鉄板の話題だ。答える方も話がしやすく、場持ちするうえ、場合によってはエピソードトークのストックにもできる(わたしが)。数秒後、彼は口を開いた。
「んー、以前、3日後までに引っ越し先を見つけなくちゃいけないっていうお客さんがいて」。3日後はすごい。そんなことが可能なのか。「ひとまず受けたんですけど、いやもう、頑張って探しても全然なくて(笑)」。そうだろう。通常であれば諸々の手続きだけでも3日はかかりそうだ。「最初は2DKだった条件を最終的にワンルームまで落として、なんとか見つけて」。まあ、条件を変更するのは致し方ないな…。「期限の前日に申し込みまではこぎつけたんですけど、ただ、今度はそのお客さん、クレジットカードのブラックリストに入っていて審査が全然通らなくて(爆笑)」。あ、そこ爆笑なんだ。「仕方がないので、何件も保証会社に問い合わせをして、期限ギリギリにまとめました」。それはすごい。しかし、それだけ苦労をしても仲介手数料は1件分だ。割に合わない。さぞかし憤っているのではなかろうか。そう思ったわたしはこう返した。「それは大変でしたね。つらい仕事だったんじゃないですか?」。彼は答える。「いやー、探している最中めちゃくちゃアガりましたね!こいつ絶対決めてやるからな!見てろよ!って。もうなんかアドレナリンが出まくっちゃって!」。
うーん、世の中にはわたしが知らない種類の変態がまだいるんだなと思いました。Aくんに幸あれ。
続きまして、
同じく検索サイトからの問い合わせを介して知り合ったBくん。彼が勤める不動産会社は地域に根差した経営をしており、賃貸の仲介よりも売買や管理に軸足を置いている。そのような会社だからか、仲介部門のフロアは他社と比べるとのんびりとした雰囲気だった。内見の約束を取り付け、予約の時間に店へ行き、窓口の向こう側を覗き込むと、長身の青年がこちらへと視線を移す。スーツ姿ではあるが、日焼けをした顔に肩まで伸びたパーマヘア、口周りにはたっぷりと髭をたくわえていて、一見したところ一昔前のサーファーといった感じだ。そのサーファー風の彼がこちらへと振り返り、そしてわたしに向かってこう言った。「あ、藤本さんですか?」。えっ、君がBくん?うそでしょ?その風貌で不動産営業やってるの?挨拶もそこそこに、わたしたちは車に同乗し内見へと向かった。
車を運転しながらBくんは開口一番でわたしにこう言った。「僕、実は社長のコネで今の会社に入ったんすよ。社長と飲み友達だったんで」。え、急になんの話?「一応、他の会社で2年くらい修行したんすけどね。今の会社の社長に"お前、2年後に絶対おれを雇えよ"って言って(笑)」。なるほど。その話、客のわたしに言うべきことではないと思うが、興味深い話ではあるな。「あ、着きました。こちらの建物の2階ですね」。部屋の内見をしながらBくんがわたしに聞く。「ところで、藤本さんってどういうお仕事をしてるんですか?」。えっと、かくかくしかじかで、音楽を作る仕事をしておりまして。「えー!マジすか??そういう人と初めて会ったっすわ!」。そうなの?まあ、こういう人あんまりいないからね。「あれっすか、アーティストに楽曲提供とかするんすか??おれ、iriとか好きで!」。iriさん、良いよね。うーん、そういうこともするけど、まあ、いろいろやっていて。「そうなんだ!へえー!あ、そうだ!おれ今年初めてフジロックに行ったんすよ!」。あ、そうなんだ。楽しかった?「いや、めちゃめちゃ良かったっす!初日はベロベロに酔いつぶれちゃったんすけど2日目からはノンアルで…、これ音楽があったら酒いらねえなって。なんていうか、音楽で酔えちゃうっていうか…、いやもう、最高でした!あ、内見はもういいすか?車で送りますよ」。すみません、ありがとう。さっきのあたりで降ろしてもらえれば。「了解です!じゃ、出しますね~。いやでも、フジロックが最高すぎて、帰ってきてからしばらくはフジロックの話ができる飲み屋しか行かなかったですもん」。フジロックの話ができる飲み屋?「だって、飲んでて、なんでお前フジロックの話ができないんだよ?ってなるじゃないですか、普通」。あー、なるね、なるんだね、なる人もいるかもしれないね。「そうなんすよ、フジロックの話がしたいのにできないのがマジ嫌で。だけど、まさか仕事でお客さんとフジロックの話ができるなんて思わなかったなー、今日マジ最高!」。そうだねえ。あ、いまの道、右に曲がんなきゃダメだったんじゃない?「あ、ホントだ。間違えちゃいました(爆笑)」。まあ、道なんて全部どこかに繋がってるからね。「ですよねー(笑)。いやあ、マジでフジロック良かったなあ」。
別れるまでずっとフジロックの話しかしなかったBくん、こんな感じですけど悪気はゼロの良いヤツでした。Bくんの人生にも幸あらんことを。
フジロック2025の前には物件とも出会いたい。あと、6か月。