Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
12月4日に、ドラマ「潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官」のオリジナル・サウンドトラックCDがついに発売されました!今回は、その音楽について少し語りたいと思います。
ご覧いただいた方はお気づきかもしれませんが、「潜入兄妹」はそのビジュアルだけでなく、音楽にも随所に中国的な要素が散りばめられています。ただし、単なる中国風というわけではありません。中央アジアや東南アジアのエッセンスまでが混ざり合った“アジアごった煮”的な世界観を形成しています。これは、異文化を取り入れ独自に発展させる日本文化の一つの姿といえるかもしれません。
「潜入兄妹」の劇伴BGMの中でも、特に印象的なのがタイトルバックで流れる男性の歌声です。この歌声は、モンゴルの伝統民謡「オルティンドー(長唄)」で、歌っているのは内モンゴル自治区出身のオルティンドー歌手、オットホンバイラさん。
オットホンバイラさんは日本の民謡にも造詣が深く、日本民謡協会の会員でもあります。これまでに姫神(旧・姫神せんせいしょん)のツアーやアルバム『風の縄文』にボーカルとして参加し、2004年にはソロアルバム『草原の風』もリリースされています。
このオットホンバイラさんの力強く伸びやかな歌声が「潜入兄妹」のメインテーマとして、サントラの1曲目に収録されています。その歌声は、ドラマ全体に大陸的なスケール感と物語の深みを与えています。
メインテーマに加え、今作で大きくフィーチャーされているのが中国の伝統弦楽器、二胡です。サントラの12曲目「兄妹の絆」や28曲目「兄と妹」では、二胡が兄妹や家族、父と子といった温かな心の交流を象徴するメロディを奏でています。
二胡を演奏してくださったのは、二胡奏者の第一人者であるジャー・パンファンさん。レコーディングで自身の楽曲を目の前でジャー・パンファンさんに演奏していただけたことは、まさに至福の瞬間でした。
この二胡曲は殺伐とした闇バイト、特殊詐欺の世界にひとときの温もりや血の通った家族の絆のようなものが感じられればいいな、と思いながら作曲しました...というのは嘘で実は「あ〜温泉入りたい!」とひたすら願いながら作った曲なのです(笑)。なのでたとえば「いい旅夢気分」みたいな旅番組の温泉紹介などのBGMとして最適!...かもしれません?。
「潜入兄妹」は、同じ世界観を共有する「占拠シリーズ」とは一線を画すように音楽が設計されています。同じ作曲者が手がけているため、部分的に似た雰囲気を感じる曲もあるかもしれませんが、基本的には占拠シリーズからの楽曲流用は一切ありません。
特にサントラ1曲目の潜入兄妹〜メインテーマは、占拠シリーズとは異なる方向性を強く意識して制作しました。占拠シリーズのメインテーマはオープニングの定番映像につけるものなので長さが45秒と決まっていましたが、潜入兄妹ではオープニングのストロークを長く使えるようにとにかく曲をどんどん展開させて結果この曲は約5分にも及ぶプログレッシブな構成の曲となりました。ドラマ内では部分的に使用されていましたが、サントラではついにフルバージョンで楽しんでいただけます。
今回も劇伴はサントラに収録しなかった曲を含めると40曲強を作曲していますが、占拠シリーズと比べてアタックの強いシンセの曲が多くなったと思います。アシッドテクノなどシンセメイン劇伴はメインビジュアルのサイバーパンク的な世界観によりマッチすると考えました。
「潜入兄妹」は、いよいよ最終盤へ。残り2話、ここからの展開は一瞬たりとも見逃せません。ぜひサウンドトラックを聴きながら、物語の結末を楽しみにお待ちください!