Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
今回は先日最終回まで完成したテレ東ドラマ『95』の音楽について少々触れたいと思います。ドラマのBGM=劇伴は、作曲家が作ったものを選曲家に渡し、その後、選曲家、監督、プロデューサーなどの現場スタッフが音楽演出を決め映像に音楽をはめ込んだり音を整えたりする作業(=MA)で完成させるのが基本的なパターンです。作曲家は基本的にMAには立ち会わないことの方が多いのですが僕は最終回のMAは極力顔を出してドラマが完結する場に立ち会いたいと思っています。とはいえ最近はスケジュールの調整が難しく、最終回MAに立ち会えないことが多くなってしまって残念。3月に最終回を迎えた日テレの「新空港占拠」でも、最終回MAに立ち会うべく調整していたのですが、MA開始時間が深夜になり、タクシーを手配することができず、泣く泣く断念しました。今回も『95』が完結する場面に立ち会えず残念でしたが、ドラマはちょうど折り返し地点を過ぎたばかり。今後は一視聴者として、毎週のリアルタイム視聴を楽しみにしようと思います。
『95』のために今回作った曲は30数曲です。基本的に音楽なしで静かに芝居を見せるスタイルのドラマなので、正直こんなに曲数は必要なかったかもしれません。実際、6話までに一度も使われていない曲もかなりあります。最も使用頻度が高い曲は、アコースティックギターでメインテーマの青春パンク曲のメロディーを奏でる「迷いの中で」や、Qちゃんが独り物想いに耽るような場面で流れる静かで繊細なアコギ曲「真夜中」あたりでしょうか。こういった静かなフォーク的なアコギの爪弾きが『95』の音楽世界を結果的に特徴づけたなあと思います。
逆にほぼ使われていない不遇な曲の代表格が、ネオアコ風インスト曲「Perfect Circle」です。95年の渋谷というと小室サウンドと並んで渋谷系もエポックメイキングなトレンドでした。渋谷系的…というかネオアコ、ソフトロック的な世界観はチームの日常的な明るい、楽しい空気感にマッチするのではないかと思って気合入れて作ったのですが、これは当てが外れてしまいました(笑)。「Perfect Circle」は2話でQちゃんがバイト先のカラオケ店で「花より男子」を読んでいるシーンで店内BGMとしてうっすら聴こえています。確かに、そこくらいしか使えそうな場面はないですよね。ちなみに、ネオアコのつもりなら「Perfect Circle」という曲名ではなく「ZEST」にした方がよかったかもしれませんが、95年当時リアルで当時僕が一番通っていた渋谷の中古レコード屋が「Perfect Circle」だったので思い入れを込めて敢えてそう名付けました。
さて、7話からはさらにストーリーのギアが一段上がり、ラストに向けて加速度的に面白くなっていきます。1話冒頭のフラッシュフォーワード(将来起こる場面を伏線的に先に見せる物語手法)も痺れましたよね。どういう成り行きを経てあの場面に繋がるのか、その時に一体どんな音楽が流れているのか、僕もすごく楽しみです。ぜひ、ここから先も最後までお付き合いください。
ドラマ『95』は実際の渋谷ではない場所でロケをしていることにお気づきの方も多いでしょう。渋谷で撮影するというのは、一般の通行人が多過ぎてパニックになりかねないため、現実的にかなりハードルが高い筈です。しかし、過去には渋谷でゲリラ的に撮影した映画もいくつか存在します。そういった『リアル95』というか、もう一つの『95』と呼んでもいいかもしれない作品が、1997年に公開された「バウンス ko GALS(原田眞人監督)」です。この映画は、当時のコギャルの青春を援助交際を軸にヤクザやチーマー、裏社会を絡めて渋谷を舞台に描いた群像劇ですが、その映像は凄まじく生々しくまるで昨日撮影して来たかのように解像度高くあの頃の渋谷の街を切り取り、映し出しています。公開が97年の10月ですがロケ映像の服装や草木の感じが初夏っぽいので撮影時期は96年4~5月くらいかも。まさに『95』に描かれた渋谷の情景そのものなのです。映像の生々しさだけでなく、コギャルたちのナチュラルな会話が、当時の若者の喋り口調を冷凍保存しているようで今聞くととても新鮮。ストーリー的にも『95』と重なる部分が多く、『95』を楽しんでくださっている皆さんにぜひともおすすめしたい邦画の大傑作です。『95』の次回を待つ間、もしよかったらご覧になってみてください。ただ、配信がU-Nextしかないのが残念ですが…。ちなみに「バウンス ko GALS」の音楽は川崎真弘さん、「バウンス ko GALS」を見返しててこの作品が「Cinema Japanesque」という一連の興行プロジェクトの中の作品だったことを思い出しました。手前味噌ですが僕の劇場本編デビュー作である「CURE(黒沢清監督・97年12月公開)」もこの一連のシリーズの中の一編でした。
というわけで今回は『95』の音楽と映画「バウンス ko GALS」についてのお話しでした。