Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
塩田明彦監督「春画先生」大好評公開中につき撮影時の思い出を絡めて今回は書いてみようと思います。
実は私、「春画先生」にがっつりと出演しております。スタッフがエキストラとして出演するのはウチトラと言ってよくある事ではあるんですが、僕は割と積極的にウチトラ出演したい方だと思っています。
なぜウチトラ出演してるのか...以前にもエックスにポストした事があるかもしれないですが、映画の世界で音楽家はほぼほぼクランクアップの打ち上げには呼ばれませんし、万が一呼ばれたとしても普通は断ります。クランクアップの打ち上げは役者スケジュール前提で組まれているので、映画制作のタイミング的には撮影が終わった直後。まだ編集もされてない中で音楽や効果、MAなどのポストプロダクションチームはこれからまさに仕事スタートという段階、何も仕事していないのに打ち上がる気分じゃないですよね。結果、ポストプロダクションチームは映画制作の現場からどうしても距離的に遠くなってしまう。だからこそ少しでも映画の現場の熱量であったり空気感を感じたくてスケジュールに余裕がある時はなるべく自分が関わる作品の現場の見学に行くようにしているんです。音楽家的なメリットとしてはラッシュを見る前に現場の絵を見ることができる…という点です。これは意外と音楽のイメージを想起する際に大きな影響があるので一足先に絵の雰囲気を観れるのはありがたいことなのです。そんな訳で現場に顔を出していると必然的にウチトラとして声がかかる事も多くなります。
「春画先生」以前にも自分が出演した作品はそこそこあります。一番最初は黒沢清監督「ニンゲン合格」です。釣り堀に訪れる客という設定でしたがこれは残念ながらカットされてしまいました。ただ歩くだけの芝居でしたが難しいものだな…と感じた事をよくおぼています。基本的に芝居をしたいと思った事はないので基礎も素養も何もない純然たる素人なので当たり前なのですが。
もっともこの「ニンゲン合格」ではエキストラではなく洞口依子さんのライブシーンで明治大学のビッグバンドにピアニストとして混ざって生演奏もしています。このライブハウスのシーンはワンカット長回しの一発勝負で、音楽も全て同録でその場で演奏した音がそのままフィルムに定着するという緊張感溢れるものでした。
その次が中田秀夫監督「ラストシーン」かな。映画のバックステージものの映画だったので、東映の撮影所内を歩いているプロデューサーと音楽家というような体でこちらは一瞬ですが映っています。
2004年には犬童一心監督の「いぬのえいが」のミュージカルシーンに観客エキストラとして参加、こちらは前橋市のコンサートホールの客席でなんとなくこの辺にいるだろう…くらいの一瞬だけ映っています。
さらに時代を下って2019年、今泉力哉監督「愛がなんだ」、ここではクラブのDJという役で出演してCDJ回してるような絵を撮って貰いましたが、結局一瞬帽子のツバが写ってるだけ…に止まりました。
そして今年公開の城定秀夫監督「恋のいばら」ではついに台詞のある役を頂きました。玉城ティナさん扮する主人公のオーディション会場で出演者の審査をする音楽プロデューサー役。こういったウチトラで最も興味深いのは監督の演出を直に見れる事で、むしろそれが見たくて顔を出してる部分は否めないのですが、城定監督に直接演技をディレクションされるかも!…と期待していたところ、なんの指示もなくほぼ素の棒読み芝居…という(笑)。
さて、そして現在公開中の「春画先生」ですが、劇中「春画とワインの夕べ」に訪れた観客の一人として思いっきり映っています。ラッシュを見た時にあまりに堂々と映っているので少々驚きました(3カットも)。そしてあろうことか今回はパンフレットに掲載されたスチールにも映り込んでしまってます。こんなにがっつり映ることになってしまったのは撮影監督の芦澤明子さんの指示(というほど大仰なことではないのですが…)だったように思います。撮影時点ではまだご挨拶する前だったので、まさかこの映画の音楽家だとは思われなかったんでしょう、ただ目立ってたのか「そこの競艇(競馬だったかも)の解説者みたいなかっこの人!もうちょっとこっちに立っといて!」って呼ばれて配置されてた...ような。楽しい思い出になりました。
こうして振り返ってみると実際にウチトラとしてフィルムに定着された作品はそう多くはないですが、これ以外にもただの見学と称してたくさん現場に呼ばれもしないのに出かけています。完成した作品のスクリーンで見る絵のフレームの外に自分がいる…という感覚はやはりちょっと新鮮です。それぞれの監督による演出もそれぞれ個性的でとても興味深い。「ヨーイ、スタート」の掛け声だけでも十人十色。ただ、これは単に映画マニアの趣味として野次馬根性でやってるかというと決してそうではありません。音楽家が作品に関われるのは最初に述べた通り編集が終わった最後のほんのひとときです。映画を作るという事はどういう事なのか、どういう人々がどういう作業をした事の集積として映画やドラマという形になるものなのか、それを理解し「自分もその作品を作るチームの一部なのだ!」という自覚を持つ…それこそが大事な目的なのです。
とカッコよく大見得を切ったところで今回はお仕舞い。これからもできうる限り現場に足を運んでウチトラ出演遍歴を更新していきたいと思っていますので、エキストラでお悩みの制作部の方!どしどしお声がけお待ちしております(笑)。