Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
1960年代後半、ロックが盛んになってあらゆる楽器が電気化されて行きます。エレキギターの大音量に対抗するのに、他の楽器をマイクで拾っていてはどうしてもフィードバックでハウリングを起こしてしまう。ボーカルも大問題で、対抗策として大声で叫んでいたわけですが、マイクを2本逆相で繋ぎノイズを相殺しておき、声は片方のマイクに向ける、という打開策が取られました。
フランク・ザッパのバンドは、楽器の電気化においてとてもプログレッシブで、サックスも電気化、バイオリンも電気化、マリンバも電気化、シンセサイザー(Arp Odessey)もいち早く導入しました。打楽器担当のルース・アンダーウッドは、自前のマリンバに穴を開けられたそうで、とても心配したのだそうですが、ピックアップをつけてアンプから大音量で再生されるマリンバの音に「ニンマリ」ほくそ笑んだザッパの表情を愛着を込めて語っています。電気マリンバの音は、生と変わらないクオリティでカッコいいです。
サックスやバイオリンの電気化は微妙で、元のアコースティック状態の時の豊かなニュアンスがエレクトリックだと乱暴かつ平板なものになりやすく、成功例はとても少ないです。ザッパ・バンドの場合、イアン・アンダーウッドのワウペダルを使った演奏とか、Barcusberryのピエゾ・ピックアップを使ったジャン=リュック・ポンティの演奏はうまく行っています。
エレクトリック・サックス独特のキンキンした音は、ワイルドなアンサンブルでは有効で初期キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドのアルトサックスとか、ロキシー・ミュージックのアンディ・マッケイとかは機能しています。
ジャン=リュック・ポンティは、フランスでモダンジャズを演奏していた時からエレクトリック・バイオリンを使っていて、中低域を太くした音色でジョン・コルトレーンのようなサックス的表現を研究していました。エレクトリック・マイルスのようなバンド・アンサンブルも実験済みだったので、大音量の中でバイオリンを生かすことができたのだと思います。
今日、エレクトリック・バイオリンは一般化していますが音楽的な可能性は乏しく、むしろDPAやShureのBeta98のような小型コンデンサー・マイクをアコースティック・バイオリンに取り付けてS/Nを稼ぎPAやモニターで大音量に対応する形でバイオリンらしい表現の幅を担保するのが良い方向になっています。
これは、ドラミングの意識改革も大きく、小音量でも良い音色やグルーブを作ることができるようになったのが大きいです。ジャズのトップドラマーだったトニー・ウィリアムスがドラムセットを大口径化し、さらに自分の肉体改造までしてロックの大音量を獲得したのは遠い過去になってしまいました。