Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
家庭内廃墟と化しつつある半地下の仕事部屋のお片付けを始めたところビックリするものが発掘されました。
シングルCD「黄色いおじさん」 マリアン
作曲 安田伸 編曲 冷水ひとみ
マリアンさんは、テレビの演歌コンテストのような番組で受賞され、”イラン人演歌歌手”というフレコミでデビューされた方。キミヤサレーという本名で、日本画家の方と結婚されていましたが、どうやら2009年に若くして他界されたようです。残念です。
「イラン女性はいったん国を出ると、もう戻ることは許されないんです」と仰っていたのが印象的でした。1995年辺りのリリースだったと思います。
私が初めて安田伸さんにお会いしたのは、赤坂溜池にあったドイツビアホールでした。小さなステージにグランドピアノがあり、ピアノ、アコーディオン、ヴァイオリン、ソプラノ歌手という編成の2組のバンドが毎晩30分交代でヨーロッパ系の音楽を絶え間なく演奏するという、今ではちょっと見られない、古い映画のような雰囲気の場所でした。私はピアノ担当だったわけですが、ある日、クラリネットを持った安田伸さんが突如ゲスト出演してくださり、クラリネットポルカを演奏。拍手喝采で終了し、丁寧なお辞儀をされているな、と思った瞬間、「ドサッ」とズッコケられました。そのタイミングが絶妙で会場は大ウケ。「やっぱりクレージーキャッツの方なんだ~」と誰もを感嘆させる見事な”技アリ”でした。
その後のいきさつは忘れましたが、何故か私を気に入っていただけたのか、「ちょっと色々手伝って」ということになり、代々木上原の素敵な御宅にお邪魔するようになりました。二階にある音楽室は広くて、グランドピアノが真ん中にあり、サックスやクラリネットがたくさんありました。なにをやっていたのか、よく覚えてないですが、このマリアンさんCDのアレンジを、ということで、参考資料としてスーダラ節のアレンジ譜のコピーなどくださいました。このスコアは、「クレージーキャッツ 55‐90 」という本に収められています。
打ち合わせが終わると、住み込みのお手伝いさんが用意してくださったヘルシーメニューの夕ご飯を、伸さんと、奥様である竹越美代子さん、そしてそのお手伝いさんと一緒にごちそうになりました。当時、安田さんは肝臓がんを患われていて「身体にいいとかいうものを毎日食わされてるんだよ」と、その場で仰ってました。お父さんが軍国主義者だったので、危うく軍人にさせられそうになった話。竹越さんとの馴れ初めなど、いろんなお話を聞きましたが、その度に「この人ってこんなこと言ったのよ」「あなたこそ、こうだったじゃないか?」とご夫妻が常に応酬される様子をみて、強い人同士の強いカップルなんだなと感じました。
最後にお会いしたのは、どこか湘南の病院だったと思います。
かなり具合がよくないと聞いていましたが、しっかりされていて、少しお話をしてから、つらい思いで帰ろうとしました。ドアを閉める前、そっと振りかえると、満面のスマイルで大きく投げキッスをされました! いたたまれず、早足で去りました。
その数年後、竹越さんも跡を追われたようです。
すべてが昭和の幻になってしまい、一枚のシングルCDだけが残りました。
「モーツァルトのクラリネットコンチェルトを自分なりに満足できる演奏にもっていきたい。死ぬまでにね。」
純粋な音楽人。そしてチャーミングな方でした。
お気に入りのMozart動画を追悼に捧げます。