Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
いやー、最終回素晴らしかったですね!浅野忠信が不穏な雰囲気で現れた第9話のラストで一体どうなってしまうのか…朝ドラ絡みのネタも多い中で浅野忠信といえば「おかえりモネ」の妻を亡くした漁師の役、これは重い展開くるか~と身構えておりましたら見事な着地で大風呂敷を畳む様相は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のニヒリズムの果ての優しさに通じる世界であり、ここまで楽しませてくれて本当にありがとう!という気持ちに…って違う違う!違うドラマだよ、そうじゃない(笑)!「大病院占拠」は今週末、これから最終回です!
という訳で僕が音楽を担当させて頂きました日テレ土曜ドラマ「大病院占拠」のサウンドトラックが本日3/15にめでたくリリースとなりました。今回は弊社トイロミュージックのリレーコラムを大占拠して、「大病院占拠」の音楽の解説をお送りしようと思います。
CD盤には参加ミュージシャン、スタッフのクレジットは入っていますがいわゆるライナーノーツ的なものがありません。サントラ盤をお買い求めになってくださった方はお手元のCDと合わせて、またそうでない方も各種サブスクの配信を聴きながら読んでいただけるとより一層楽しんで頂けるかと思います。
まずは先頃公開しました「大病院占拠 サウンドトラック・メイキング映像」について補足を。映像が収録された12/25、まずはアンセムコーラスの國土佳音さんの録音からスタート。午後から夜にかけて金管隊、夜遅めから門脇大輔ストリングス、そして夜中過ぎから竹中俊二さんのエレキギターのソロという順に録音して、全部終わったのが夜中の2時過ぎくらいだったでしょうか。かなりくたくたになって帰りのタクシーの中で寝てしまったのを覚えています。映像では1曲頭から最後まで録音してる風ですが、実際は切りのいい所で止めながら作り上げていきます。コンサートマスターの門脇大輔氏とのやりとりは一切収録されてないですが、常に「ここはどうする?」とか「音価、もっと短めで!」などと補足的なアーティキュレイションのディレクションし、コミュニケイトしながら作り上げていきます。僕はコントロールルームからトークバックで話すのがまどろっこしいので、オーケストラ中央のコンダクター席にいる事が多いです。でもこうして映像に残すと自分でも色々な気づきがありますね。今回とても刺激的だったので、メイキングは今後もさらに本格的にやってみようかなと思っています。
番組のOP曲として一番最初に書いた曲が実は後に「武蔵三郎のテーマ」となる曲だったのですが、「ヒーロー側に傾きすぎている、もう少し鬼サイドも包括する狂った雰囲気も欲しい」…という理由でボツになったので、新たにエキゾチックで怪しげな方向性で作った曲が「大病院占拠 メインテーマ」です。ガムランのイントロに導かれDrum’n’Bassっぽいトラックに乗せてエキゾチックなアンセムコーラスが駆け抜ける…そんなオープニングテーマになりました。
さらに「大病院占拠 メインテーマ」のイントロ部分のガムランを発展させてメロディーを膨らませたものが「百鬼夜行」という曲です。鬼たちが百鬼夜行ちゃんねるで配信を行う時にBGMとして流れていることが多かったと思います。さて、一体なぜ鬼がガムランなのか?…という問いには明確な答えがあります。ガムランは青銅製の打楽器で非西洋的な音階による金属的な響きが特徴です。普通のドレミファソラシド~とは全然違う音階でガムランは鳴ってまして、それが独特の浮遊感だったり聞いた事のない異世界観を醸し出している訳です。この金物がキンキン鳴り響いて奏でる音楽…というところがポイントで、お経っぽい曲=Tr3.「鬼」にも金物を叩く音が沢山フィーチャーされているのですが、とにかく鬼が出てくる場面ではこのキンキンした響きが印象に残るように劇伴は組み立てられています。なぜ鬼が金物なのか?実は第1話ですでに大きなヒントが…っと最終回前なのでネタバレ厳禁、あとは皆様で考察してください。
この「百鬼夜行」はいわゆるAKIRAで有名な芸能山城組によるガムランの再現というよりはもう少しニッチな西ジャワ地方のスンダ・ガムランからの影響が強く出た曲になったと思います。この辺りのイメージの源泉は学生時代に民族音楽のゼミで聴いて虜になった「Degung Sundanese Music of West Java」でしょう。儚くも繊細で美しい蜻蛉の羽のような音楽です。
「百鬼夜行」からの流れを受けて、鬼たちが第1話で病院占拠する時にかかった通称お経みたいな曲=「鬼」という曲にも触れておきましょう。お経風ではありますが文言はデタラメ+ちょっとだけサンスクリット語入っています。鬼を単なる悪役として描かず、むしろダークヒーロー的に見せるために音楽で何ができるだろうか?どんな東洋的な音楽要素がありえるだろうか?と考えた時に、パッと思いついたのがレインボーマンでした。主人公のヤマトタケシは般若心経の一節を唱えることでレインボーマンに変身するのですが、それがやたらかっこいいんですよね。他にもジョージ秋山の漫画「ザ・ムーン」で9人の子供たちが巨大ロボ、ムーンを動かす為に般若心経を唱えて精神統一するのもイメージの源泉ですね。もう一つ、ドハティ版ゴジラのキングギドラのテーマでも音楽のベアー・マクレアリーが本職のお坊さんを呼んで般若心経をアレンジしたものを唱えさせていましたが、さすがに本職のお坊さんによるお経は日本人的には割と馴染みが深すぎてもうひと捻り欲しいよね…というところでホーメイでお経をやったら…という組み合わせを思いつきました。
ホーメイというのはモンゴルの伝統的な唱法で、唸り声のような超低音と笛のような音を同時に発声する倍音唱法です。普通にお経を吟ずるよりも深く重く禍々しい響きに聴こえます。ホーメイをやってくださったのは元・倍音Sのボイス・パフォーマー、尾引浩志さんです。尾引さんは以前に僕が音楽を担当したドラマ「ザンビ」の劇伴にもホーメイで参加して頂いています。
ホーメイがどういう音楽かわかりやすい例を聴いて頂きましょう。「鬼」で聞かれるお経の吟唱との相似を感じて頂けるかと思います。
ヒーロー=武蔵三郎の活躍を彩るスタイリッシュなテーマ曲としてオープニングの直後の提供バックで毎回使われるとともに、武蔵が攻勢に出る時など本編中のいいところで使われています。元々はこの曲をオープニングテーマにする予定で作っていました。変拍子が特徴的なこの曲を聴いて「ミッション・インポッシブル」を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。延々リフを繰り返す所やいわゆるスパイ物、刑事物っぽいメロディーという点に於いて限りなくそういう遺伝子を受け継いだ曲である事は間違いないと思います。他にも「S.W.A.Tのテーマ」とか「刑事コジャック」、「秘密指令S」、「サンフランシスコ捜査線」などなど…そういう「犯罪捜査感」の香りのするメロディーは枚挙にいとまがありません。そういった系譜は洋ドラだけではなく本邦の刑事ドラマにも受け継がれています。「武蔵三郎のテーマ」のメロディーをトランペットが奏でている所などはもしかしたら「大激闘マッドポリス’80」への無意識の目配せだったかも(多少強引なこじつけなので話半分で聞いてくださいw)。個人的にはそもそも「大病院占拠」という番組名の向こうに「大都会」「大追跡」「大激闘マッドポリス’80」という日テレ刑事ドラマの系譜を感じている今日この頃です。
悲劇や愛情、思慕など感情が溢れるシーンなどで使われるように書いた、いわゆる「泣かせ」の曲です。こういう曲に「愛のテーマ」なんてタイトルをつけてしまうのがサントラ好きの悲しい性なのでしょうか。80年代くらいまでは洋画のサントラのテーマ曲のシングルカットには必ずこの「愛のテーマ」のタイトルがあったように思います。「タワーリングインフェルノ 愛のテーマ」とか「カサンドラクロス 愛のテーマ」とか…。ジェリー・ゴールドスミス「オーメン 愛のテーマ」なんて素敵ですね。ピノ・ドナジオ「殺しのドレス 愛のテーマ」の日本盤7インチは深町純がアレンジした歌物で、テリサ・マックスウエルなる歌手が歌っているのですがかなりグダグダな歌唱な上にどう聞いても日本人ぽい発音で失笑してしまうんです。が、これはこれでまたいい味があったり…。いつかこういう「愛のテーマ」の7インチだけでDJプレイとかしてみたいですね。
話題性のある曲を何曲かピックアップしてお届けして参りましたがいかがだったでしょうか?そしていよいよ今週末は最終回!すべての謎が解き明かされる驚きの展開!その先に何が待っているのか?!とにかく視聴者のみなさんの考察を見るのが本当に楽しい3ヶ月でした。考察系のYou Tuberやツイート、盛り上がってますよね。音楽にも伏線は仕込んであったりもするんですがあまり気がついては貰えないのが残念なところです。
というわけで最後まで「大病院占拠」、是非お楽しみください!