Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
前回のこのコラム で持続系効果音の話を書いた。シンセのちょこまかした音が大好きなの同様、効果音も大好きで、作品にも効果音シーケンスを多く盛り込んでいて、いわゆる業務用ライブラリーも長年購入し続けている。
先日、とある仕事でも効果音を色々と作成したのだけど、その中で「瓦が大量に落ちる音」が必要になった。これは日本特有の音で、海外のライブラリを探しても残念ながら見当たらない。こういう時は本物の音を録音する事になるのだけど、さて、どうしたものか?瓦の音は独特だ。そんなめったに使用しない音の為に、廃材や金属、ガラス類を大量に保存しておくなんてFOLEYのスタジオでもない限り出来ないので、今から瓦を調達する必要がある。とりあえずホームセンターに行ってみようか?いや、瓦なんて、さすがに素人がDIY出来る様なものでもないし、種類も多いし、大量買いする様なものだから、あったとしても1枚や2枚で販売してるか?
幸い近くに、よりプロ仕様の店コーナンPROがあったので行ってみたけど、やっぱり瓦は置いていなかった。
さて、どうしたものか?そこで、近所で音楽もやってる飲み友達を思い出した。建設関係で電気工事をやっている人なので、もしかしたら情報があるかもしれない。
「瓦、扱ってるお店ご存じないですか?」
「あ、家の近所に瓦屋さんあるよ」
町の瓦屋さん。大量の瓦を常備しているとは思えないが、1〜2枚で買う事は出来るのか?もしかして、廃材の瓦、割れた瓦とか置いてあるかも。などと勝手に期待して、名刺も手土産も持たずに飛び込みで門を叩いた。
「近くの電気屋の〇〇さんにご紹介いただきました.....」
音楽家で効果音を作っていて、瓦が割れたり落ちたりする音を収録したい、と説明した所、
「割れたやつでもええんか?種類ちがうやつでも大丈夫?」
「はい。なんでも大丈夫です」
「捨てようと思ってた所だったのがちょうどあるわ」
それはまさに期待していたものだった。取りはずした使用済みの汚い瓦、割れた瓦などを5枚分ほど、無料でいただく事が出来た。
割ったり、重ね合わせたりする音を、先日購入した AKGのC414 と、RODEのNT-4 を使用して収録する。RODEのNT-4はいわゆるX/Y方式のステレオマイクで、最近のポータブルレコーダーによく付いているタイプのもの。1本のマイクでステレオ収録が出来るので非常に便利。
瓦を重ね合わせる音の1つ1つは軽い音だけど、これを20回ぐらい重ねて録音、まるで地震で瓦が屋根から大量に落ちる様な音を作る事が出来た。瓦屋さんにとっては、瓦の割れる音など気持ちのいいものではないだろうが、そこはご理解いただけた様で、後でお礼に行った時に出来上がったCDもお渡ししておいた。
日本特有の音は他にもいろいろある。お寺の鐘、お祭り関係。そういった効果音だけを集めたCDも昔から発売されているのだけど、こちらはいわゆるプロ用ではなく著作権の問題で使用する事は出来ないので、結局、自分で録音を集める事になる。例えばセミの鳴き声。海外のライブラリにもセミの鳴き声はあるんだけど、どう聞いても日本のセミと種類が違うので違和感がある。しかも背景の音がジャングルっぽかったり。これでは日本の夏の風景にはならない。あと昔はツクツクボウシ、ミンミンゼミの声をよく聞いた。風情があって良かったのだけれど温暖化でセミの生息地域が変わったのか?最近近くで聞いた記憶がない。ほとんどがクマゼミの声で非常にうるさい。
一昨年の夏、山にでかけた時に久しぶりにツクツクボウシ、ミンミンゼミの声を聞いて、その時はうれしくなって録音しておいた。
iPhoneのボイスメモで録音しただけ、しかも山といっても車で行ける公園の様な場所だったので、車の音や人の声がたまに小さく入ったりして苦労した。いつか本格的にフィールドレコーディングの分野にも手を出してみたいのだけど、本格的となると体力、時間のいる作業になりそうな気がする。ひとまず、にわかフィールドレコーディングは続けていきたい。
では季節外れのセミの声、夏気分をどうぞ!