Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
今回は書籍にCDが付属したもの。あるいはCDに詳細な解説が付属した物を、三種類紹介します。
まず一冊(一枚)目は、
ジョン・R・ピアース(著)村上陽一郎(訳)
日経サイエンス社(1989/11/25)/ ISBN4-532-06275-6
タイトルにある「コンピュータ」の文字に、長音符の「ー」が付いているのが、時代を感じさせます。こちらは本がメインです。CDは本の内容を具体的に音で示したものとなっています。書籍は大型版で255ページあり、なかなか内容も濃いものに。本の性質上、数学的記述や物理的記述が多く、読むのはかなり難儀です。さて付属のCDのことですが、前半は音響の特性を色々と紹介されています(現在ならば、いとも簡単にコンピュータで再生できる効果ばかりですが)。後半は上記の技術・効果が応用され、実践された作品がいくつか収録されています。どれもコンピュータあるいは電子音楽の黎明期といったものばかりですが、曲によってはむしろそれが新鮮だったりもします。
次に、
若桑みどり(著)
高橋悠治 音楽/コンピューター・プログラミング
主婦の友社 (1990/11/1)
ISBN-10 : 407936492X / ISBN-13 : 978-4079364928
本がメインでCDがそれに付属した物です。本の紹介文は以下のように書かれています。『風-宇宙の息。人は昔から風に豊かなイメージを託してきた。それらは神話に絵に彫刻に音楽になってきた。いま、トータルな感覚と想像力の世界を1冊の本の中に実現した。風に寄せる12章をテーマに、高橋悠治が全曲コンピュータ・プログラムにより制作したCD。今年度、注目話題のCD BOOK。』解説の通り、風をテーマにした絵と言葉のテーマに沿って、高橋悠治氏が音楽を付けています。『使った機材は、コンピュータはMacintosh SE/30、ディジタル・サンプラーは、Akai S-1000のみ。(同書、高橋悠治氏による収録曲解説)』とのこと。これらの機材は同時期ではありませんが、自分も一時期所有していたことがあったので、妙に懐かしさを感じます。今はなき「5つのNO!(説明しない・展示しない・交換しない・解約しない・無料サービスはしない)」のステップという名の量販店で購入した、SE/30は自分が所有したパソコンの中で、一番思い出があります。話がそれました。高橋悠治氏の音楽は短いサンプルをループさせて、長い音が発音できるように調整された音が中心で、調子っ外れしたメロディーや、自由に鳴らされる装飾音を中心に構成されています。今はハードのサンプラーを使う人も少数だろうし、メモリも膨大に増えて、長い音も難なく読み込むことができるようになりました。少ないメモリでやり繰りしながら、自分でサンプリングしたオリジナルの音を使用するミュージシャンも、随分減ったのではないでしょうか。この作品集は簡素なサンプル音ながらも、オリジナル感があり、いま聴いていても新鮮です。
最後は、
選曲・解説=中村とうよう ©1992
有限会社オーディオブック / AB109
『ピーター・マニュエル著「非西欧音楽のポピュラー音楽」の内容を実際のオトでフォローする、第三世界全域から選りすぐった19曲。』本体のメインはCDなのですが、解説内容が豊富で、1曲1曲が細かく記されており、読み応えのある一枚に仕上がっています。もともとは、未だ第三世界の音楽を、遅れた未発達なモノだとされていた時代に、白人学者のピーター・マニュエルによって解説されたという、意義ある研究書でした。しかし、この本を読み進めたところで、参考音源の入手も難しく、たとえ聴いたところで、理解できるほど懇切丁寧な内容でもない仕上がりだったようでした。それで、その難しい内容を補完するために、このCDがリリースされたようです。残念ながら収録された量が、一枚分のみなので、如何せんボリュームが無い。もう少し色々な曲が聴きたかったというのが、正直な感想です。どの曲も良いのですが、特に気に入っている曲は、ヴェトナムの『コ・サウ/蝉の声がかしましい(ヴォン・コ/望古調)』です。中国少数民族音楽の影響がみられ、粗野で疾走感があり、複雑なヘテロフォニーで、各楽器が絡みつくように展開していきます。ヴェトナム音楽でここまで複雑な構成は、初めて聴きました。