Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
2005年だから、もう随分と前の話になってしまうのだけど、当時マルセイユのNPO、A.M.Iが世界各地でワークショップをやっていて、私もDAW(コンピュータで音楽を作る)の講師として招かれロシアとか中東とか、世界各地で現地の若者たちとセッションしていて、その一環でコンゴ民主共和国のキンシャサを訪れたのでした。
長年にわたる内戦で国は大変、首都キンシャサはもうボロボロなのに人口は750万(現在は1457万だそうです)、空港から街の中心に向かう車の中でも街道沿いの住まいや店、人々の有様はまったくのカオスです。
ワークショップはフランス文化センターの中、10人弱の生徒を相手にベイルートのDJザイード君(Zeid HAMDAN)と一緒に進めていきます。他の部屋では、テキスタイルのワークショップとか、ヒップホップのテキストのワークショップ、ほかにストリートダンスの教室もやっていて、我々の教室からビートが響くとみんな覗きにきて窓に人だかりができる。数日すると、手作りのエレキギターとかコンピュータの部品(ハードディスクとかメモリのバラ売り)とか、どこから潜り込んでくるのか有象無象の若者がやってくる。夜、生徒たちと一緒に遊びに行った繁華街(と言っても間口3メートルくらいのカフェやレストランが並んでいる程度)では、小さな子供達がタバコとマッチをバラ売りしている。店の入り口には、必ず大きなラジカセが吊るしてあって、ボリューム10、トレブル10、バス10で現地のヒット曲のカセット(コピーし放題で著作権など御構い無し)でかけている。どんな曲でも音はディストーションがかかり、ビートは炸裂していました。
ワークショップは、DAWの使い方を手ほどきしてあとは4セットくらいあるコンピュータでバラバラに制作の予定だったのだけど、バラバラに作業ができないのです。曲は全員一緒に作る。生徒たちの音楽レベルはまちまちで、もうプロデューサーとして活躍しているFofoとか、プロといってもいいギタリストのPytschensとかもいれば、まるで音楽始めたばかりの18歳の少年(家が金持ちらしく、機材にはやたら詳しい)などバラバラなのに、曲はみんなでワイワイ言いながら作る。その集中力たるや、プレミアリーグのトップチームのようです。BPMの早い遅いや、バスドラの音色は大問題で、彼らにはリズムこそが中心なのだと痛感させられました。フランス文化センターは、普通に日本のリハスタ程度の楽器が揃っていたのが、インフラの乏しい彼らにとっては宝の山、ドラム、キーボード、ギターを演奏する彼らの喜び様にも感心しました。
二週間ほどのワークショップで5.6曲作ったのですが、全曲共通していたのが「ベースは一番最後に録音する」というルール。別に決めたわけではないのに、全員そう思っていて、ヴォーカルやコーラスなど上物も全部済ませたあとのお楽しみとしてベースを入れる。シンプルなラインでも、他のパートに組み合わせて立体的なサウンドにするのは、対位法的ともポリリズム的とも言えるやり方で、強く影響されました。
ワークショップに参加していたFofo KajeとPytshens Kambiloの動画をあげておきます。Pytschensの方は結構古く、当時のキンシャサの様子が伺えます。