Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
機械が演奏する音楽が好きです。オルゴールや自動ピアノには小さな頃から親しみを感じていたのだけれど、そのことをはっきりと意識したのはイタリアのフェスティバルでピエール・バスティアンの"Mecanoid"を見た時です。
このようなモーターを使った小さな自作楽器が10数種類、背の高いラックに設置されていて、それを曲ごとに切り替えながらピエールのポケット・トランペットとブルーノ・メリエのアルトサックスの演奏が繰り広げられて行くのですが、機械の演奏がまったりしている上にリズムが素晴らしくよれていて、猛烈な睡魔に襲われる。おそらく、オーディエンスの半数は寝ていたのではないでしょうか。Youtubeには、非公式のピエールのコンサート映像もあるので、ぜひみてください。余談ですが、この手作り楽器のラックは設置にまる1日、しまうのに2日がかりで、フェスの他のグループが演奏しているステージ裏で延々丁寧に片付けている。話してみたら、レイモン・クノーとかが好きな文学青年でした。
機械を使った自作楽器はずっとやっている人たちがたくさんいて、最近ではAbletonのホームページでも若手3人が紹介されています。それぞれに味が違っていて、面白い。
自動ピアノの領域では、何と言ってもコンロン・ナンカロウが素晴らしい。彼のことを知ったのは、ご多分に漏れず1980年代以降のことですが、確か91年に購入したwergoレーベルからのCD5枚組はそれは素晴らしく、毎年8月の一番暑い時に5枚組を通して聴くのが習慣になりました。数式を音楽化した「カノンX」とかも素晴らしいのですが、義勇兵として参加したスペイン内戦の記憶が影響していると思われる「習作12」は、何回聴いても感動します。
ナンカロウは、リゲティのピアノ曲に直接的な影響を与えていますが(リゲティ本人がそう語っている)、リゲティの作品で機械の自動演奏が曲の核になっているのは、コレです。とても良い。メトロノームを(ほぼ)一斉にスタートさせるための工夫が面白い。
さて、作曲の意図はないのだけれど、機械の奏でるサウンドは人間が作る音楽に大きな影響を与えているし、そのサウンド自体を音楽として美的に鑑賞することもしばしばあります。船の汽笛、工場の機械音、花火の音、MRI、竿打つ旗の柄、色々ある中で最大の力を持っているのは、汽車・電車の車輪とレールの境目が発する「ゴトンゴトン」という音でしょう。たくさんのブルースの題材になっているし、誰もがぐっと来るところでしょう。ここではエリザベス・コットンの「Freight Train」をあげておきましょう。