Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
キエフという地名を、これほど何度も聞く日が来るなんて思いもしなかった。
自分にとってキエフとは、ロシアの作曲家ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。その最後の曲が「キエフの大門(たいもん)」。
ピアノの先生が、なぜか12歳の自分に弾くよう指定した楽譜。今も手元にある。それまでは、ドビュッシーの流麗な曲をカッコいいと思って弾いていた自分に、先生はなぜこれを勧めたんだろう。男の子だったらこういうのが好きかも、と思ったのだろうか。それとも、こういう骨太な曲が好みだったのだろうか。
練習は苦痛だった。指を目一杯広げて平行移動。離れた音程を左右に行き来する手はミスタッチばかり。楽しくない。
楽譜にはキエフの大門の絵がある。建築の立面図のようなそれを見てもピンとこない。キエフってなんだ?今ならネットで検索するのだろうが、当時はそうもいかない。
今改めて調べると、どうやらロシアの人々にとってはモスクワやサンクト・ペテルブルクが栄える前に存在した古都のような存在だったらしい。遠い昔に存在したキエフ公国という豊かな国の城門。市街を城壁が取り囲んでいて、その門は市街への入り口。門を一歩くぐればワクワクするような街の生活が待っている。そんな想像をする。
たまたまムソルグスキーの時代に、ロシアの領土に含まれる都市だったキエフ。それでも自分たちの古都という意識を持つのだろうか。地続きの国は難しい。(とはいえ日本人だって、違うオクニの奈良や京都を古都だと感じる。これと同じかもしれない。)
その後、ガーシュウィンが好きになった自分は、ムソルグスキーと指の広げ方は似ているけど音楽的に違うなあと感じる。更に高校生の自分はEmerson, Lake & Palmer のプログレカバーCDを聴いて、ああこの音楽はロックだったのかと知る。重厚なリフを作る時には、いまだに参考になる。
そして今、キエフはキーウになった。とはいえ、曲名はそう簡単に変わらないのだろう。