Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
今回は、今年の3月から順次配信が始まった、シンガーのCoba-Uさんに提供した楽曲3曲の解説をしてみたいと思います。
3月にシングルとして「ハイファイ」、4月に同じくシングルとして「SF」、5月には先のシングル2曲も含まれたアルバム「C」の収録曲として「星空と神様 ambient night mix」がリリースされました。この3曲は、ともに作曲、編曲、ミックス、プロデュースを担当させていただいていて、2017〜18年ごろに制作していたのですが、当時リリース形態を決めていなかったため、今回配信が開始されるまでは、ライブ会場でのCD販売や、一部のラジオ局でのオンエアなど、ごく限られた形でしか聴いていただくことができなかったものです。
3曲とも、Coba-Uさんの歌以外に生演奏はなく、全てソフトウエア音源のみで制作しているのですが、以下それぞれの曲を解説していきたいと思います。
この曲は3曲の中で一番古く、1990年代の終わり頃、まだロンドン在住だった頃に作ったもので、JAZZFUNK調のリズムで英語の歌詞をつけてイギリス人の女性シンガーに歌ってもらったデモが残っています。
この曲の特徴としては、シャープ9thというメジャーとマイナーを同時に鳴らしてしまうブルージーな響きのコードを使っていることで、このコードを使った有名な曲としてはJimi Hendrixの「Purple Haze」が挙げられるかと思いますが、「SF」のコード進行も実は「Purple Haze」からヒントを得ています。「SF」がブルージーに聴こえないのは、メロディーがメジャーとマイナーを特徴付ける3度の音をあえて避けていて、3度に来る時もメジャーの音程を使っているからです。また、この曲はAメロとサビのコード進行がほとんど同じなのですが、サビではメロディーがマイナーの3度に来る部分を作って変化をつけています。
アレンジはArp Odyssey、Prophet5、Korg MS20、jupiter-8、OB-Xなど、70年代後半から80年代前半のアナログシンセをシミュレートしたソフトウエア音源を多用して、初期のテクノポップのような音作りにしています。リズムは、サンバを基本としていて、あえて年代的に少し新しいYAMAHA RX-5という少し軽めの音色が気に入っているデジタルドラムのソフトウエア音源を使っています。
ミックスは3点定位というビートルズのステレオミックスなどでも聴かれる手法で行なっていて、全ての音を左、中央、右のどちらかに振り分けるようにしています。
この曲を作ったのは、おそらく2000年代の半ば頃だったと思います。元々はブリリアント・グリーンのような女性ボーカルのメロディアスなロックバンドをイメージして作った曲なのですが、リズムをレゲエにしてアレンジを全く別のものに変えたので、その面影は感じられないと思います。
使った音源としては、ルーツレゲエを意識したHammond Organやエレピ、アナログのリズムボックスなどに加えて、DX7で一世を風靡したFM音源や、Roland D-50のようなデジタルシンセ音源、PCM音源的なストリングスとハープに、ドラムもLinn Drumの音源を使用したりと80年代後半的な音作りも意識しています。
やはりミックスは3点定位を採用していて、歌詞に沿って曲の中間部などでは夢と現実の間で揺れ動く乙女心をダブで表現してみました。
この曲も2000年代の半ば頃「ハイファイ」よりも少し前に作ったクリスマスソングです。
リズムが入ったバージョンも作っているのですが、silent nightに韻を踏ませた「ambient night mix」というタイトルを思い付き、ambient musicと言えるほどではありませんが、静かめでふんわりとしたバージョンを今回のリリース用に作ってみました。使っている音源としては、ピアノ、鈴、チューブラー・ベル、パイプオルガンなどの生楽器を再現したソフトウエア音源や、アナログシンセ音源、デジタルシンセ音源に加え、ソフトウエアベースで開発された新しい世代のシンセ音源も用いていて、他の2曲のように特定の年代を意識するような作り方はしていません。
この曲で特に力を注いだのは、ゴスペルを意識したボーカルアレンジで、ハーモニーは音程を変えて作ってしまうことも多いのですが、この曲に関しては、全てのパートをCoba-Uさんに実際に歌ってもらっています。
この曲のミックスは3点定位では音を分離させるのが難しかったため、中間点を加え5点定位になるようにしました。
というわけで、随分と長くストックしていた曲が日の目を見たということになり、非常に感慨深い思いもあります。最近はあまり曲のストックを増やす作業はできていないのですが、まだまだ色々なスタイルの曲のストックがあるので、場を見つけて発表していきたいなと思っています。
ご興味をお持ちいただけましたら、今回リリースされた3曲は各種音楽配信サービスにて配信されていますので是非聴いてみてください。
各種音楽配信サービスのリンク:https://nex-tone.link/A00098493