Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
横川: 「Whale Ivory」のアイデアはどこからきて、どんなふうに作曲・制作したのかしら?
谷口: 自分の持っているものを確認しよう、というところから始めました。スタジオがあって、ピアノがあって、フリューゲルホルンの練習を始めている。録音環境もある。そんな状況を、言ってみれば「棚卸し」したような曲です。普段の仕事だとニーズに合わせて制作するのに対して、自分の持っているシーズから始めたということです。
あとはピアノの手癖にメロディを乗っけただけ。だから成り行き。明確な意図は無い曲です。作り終わってから気づいたんですが、中学生の時に作った曲にそっくりで驚きました。マイナー基調で二部形式。前半が三連符系で後半が四拍子。今のほうが和声は複雑ですが、当時の曲は3と4のポリリズムが入っていたりしていたのを思い出しました。当時から進歩していないということが確認できて、がっかりすると同時に、人って変われないもんなんだなあと思いました。
横川: 楽器が生録音だから、Wafers Studioのサウンドがよくあらわれていると思うのだけど、スタジオの音についてこだわりポイントがあるかしら? あるいはマイクやスタジオ機材について。
谷口: とにかくスタジオも機材もフラットというか無色透明でありたいと思っています。誰とでも作業できるオールマイティな空間でありたいんです。なので、吸音を通常の商業スタジオよりも強くしてもらって、部屋鳴りを極力減らしました。
あとは茶室のような空間にしたいと思って作りました。そこに入ると普段と思考回路が変わるような。誰かを迎えるにあたって、想像して準備しておいたりするのも好きです。
横川: 谷口くんは、作詞作曲編曲、いろいろな楽器の演奏からエンジニアリングまで全部カバーしてるし仕事の幅もすごく広いのだけど、自分で「こういう方向に進んで行きたい」というのはあるのかしら?
谷口: 30代から仕事を始めて、ポップスの人脈でやってきましたが、40代は劇伴をがんばろうと、やたらクラシックを浴びるようにしていました。今は何も目標がないんですよねえ。今回の曲で言えば、2分20秒くらいの低音の気持ち悪い「うねり」みたいなところが楽しかったから、音をミックスすることにやりがいを感じているのかもしれません。
横川: 歌のメロディーとか節回しについて、思うところあれば聞いてみたい。自分の場合、ビートルズが出発点で、その後R&Bとかブルース、各種民族音楽を好きになったのだけど、谷口くんの場合は歌メロをどう扱ってるのかしら?
谷口: メロディって保守的ですよね。何かに似てないとメロディには聴こえない。耳馴染みが良いものじゃないとメロディとして共有できない。でも逆に、例えば何の脈絡もない3つの音を毎日聴いていると、ある日からメロディに聴こえてくる。自分にとって、ジャンルとメロディは関連がないんですよね。ジャンルを決めるのはグルーブと和声であって、メロディはどんなものでもいいのかも。
以前から謎だったんですけど、自分には「レドソファミ♭」と降りてくるメロディを使ってしまう癖があります。
降りてくる時に、音を跳ばして降りてくる。そうしないといられない。これが、どこから来たメロディなのか全く心当たりがない。不思議なんです。他の人にも、その人っぽいメロディの動きってあるよなと思います。でもそのルーツは分からない。誰でも自分の気持ち良いメロディラインってありますよね。傾向、嗜好、性癖のような。それって何なんだろう。誰か教えてくれませんか?
横川: 「navy」は、どこから思いついて、どうやって作ったのかしら?
郷: 何のあてもなく、鍵盤をポロポロと弾きながら、探りを入れるところから始まりました。エレピを4小節なんとなく弾いてみたら循環したくなったので、それがとっかかりですね。僕やdetune.をご存じない方が聴かれることもいつもより多めに想定をしたので、自分の中の標準的なニュアンスを無理なく出すのがいいなと思いました。
横川: 歌詞を書くときの秘訣とかあるのかしら?
郷: これもとっかかりはなんとなく…今回は、色の中で歌いたくなるサウンドを持った言葉が「ネイビー」だったんです。後は埋まるところから埋めていくうちに、なんとなくどういう歌かっていうのが決まってきます。なんとなくばっかりですね…。作曲も含めてあえて秘訣らしく言うと、感覚をゆらゆら泳がせて、たなびいていくほうがゴールであろうということです。
横川: サウンドやリズムへのこだわりは、どのあたり?
郷: アコースティック、エレクトリック、エレクトロニック、アナログとデジタル、演奏とプログラミング…そういった全てを受け入れたいという思いが常に根底にあります。アルバムでは全体でバランスを作れるけど、今回は1曲でなるだけバランスを取りたいなと思いました。
一か所だけ出てくるFM音源なエレピ音色は、個人的には今まで使ってこなかった馴染みのない音ですが、お楽しみポイントです。
横川: 曲作っているときに、色とか映像も浮かぶのかしら? あと、好きな映画とかある?
郷: 簡単な景色は言われてみればいつも曲ごとに浮かんでますね。今回でいうともちろん海中です。ぐんぐん潜っていくイメージ。好きな映画は具体名を上げだすとキリがないので、こういう時にことあるごとに言ってるのは岩井俊二作品なのですが、あとはなんだろう…ループしちゃう時間もの、我々が認識できる世界の外側を描いたものなどのSFは大体好きです。あとは色味やフィルターに一癖ある映画は、ストーリーに関係なく好きになりやすいかもしれません。トイロにこじつけるわけではないですが、色で見てる割合は案外大きいかも、今気付きました。最近はサブスクでいろんなものが観られるようになって時間がいくらあっても足りないですね、絞っていかないと。
横川: 音楽制作で、「これだけはやっておきたい!」っていうことはあるのかしら。
郷: 需要ありゃこそやる気が出るという感じなので…なんですかね…。歌うだけとか、楽曲提供とか、部分的な担い手になってコラボめくのは結構好きですね(労力の割にどれも自分の曲!というツラが出来るし!)。あと、もっとナレーションやりたいです(笑)。
横川: ライブは好き?
郷: 好き!と言えるほど余裕を持ってやってみたいものですが、なかなかそうもいきません(コミュニケーションの機会としては好きですが)。ただ、ライブの最中にほんの一瞬訪れるかもしれない、綺麗な瞬間というか生きてる実感みたいなものがあって、あれを体感した日はライブもいいものだなと。
横川: クニさんは、もっと自分で歌えばいいと思ってるのだけど、なるべく女性ボーカルでやりたいのだっけ? それと「自分の作るものはポップスにしよう」とか枠組みを考えているの?
クニ: ちょっと質問から離れてしまうのですが、今回の作品は諸事情でごく短い制作期間で作ることになり、ある意味とても自分らしい作品なのですが、自分が見せたい自分を見せられなかったと思っています。本当はしっかりコーディネートしたかったのに、寝起きの自分を見せてしまったような感じです。自分が歌うことについては、表現力的に無理があると思っているのと、自分の声を使って何かを表現したいと思うこともないので、今回は消去法的に自分で歌ったのですが、今後は多分やらないと思います。
自分が作りたいと思っているものは、清涼飲料水的な、エンターテイメントとしてのポップ音楽で、映画のように重みがあるものではなくて、トムとジェリーのアニメみたいに、短い中に起承転結のあるストーリーを詰め込んだようなものを作りたいと思っています。偏見かもしれないですが、男性ボーカルはちょっと重みが出てしまうというか、女性ボーカルの方が自分が作りたい作品に向いている感じがしています。
横川: コードとメロディの関係は、どうやっているの?
クニ: 歌物は、ほとんどの場合ギターで作曲していて、今回の「colourful things」も、Coba-Uの「SF」「ハイファイ」(※後述)もギターを弾きながら鼻歌で作曲しています。曲にもよるのですが、コード進行というよりもリフ的なものをきっかけに曲を作り始めることが多く「コードとメロディの関係」を作曲中に意識することはあまりないと思います。物語に例えて言えば、コード進行がストーリー、メロディーがセリフにあたるものと思っていて、ありきたりなストーリーや、ストーリーに沿ったセリフしか出てこないのもつまらないので、ノンダイアトニックや半音進行などで、意識して裏切る部分や、少しはみ出る部分を作ったりすることがあります。作曲の時点でほとんどの場合ある程度のアレンジの方向性を念頭には置いていますが、コード進行とメロディだけでその曲の世界観が見えてくるようなものを作ることを目指しています。
横川: 自作曲のコンセプトはどこからくるのかしら?
クニ: まず、イメージを伴わない純粋なコンセプトから作業を始めることはありません。作曲はイメージやリフやメロディなどの断片から、アレンジはイメージを若干具体化した程度コンセプトをたててから作業を進めることが多いと思います。作曲に関しては、悩んだり、時間に迫られたりというような状況では、言語化したコンセプトをたてることもありますが、例えば、イメージが近い既存曲を自分なりに分析して、そこからどんな手法を引用して、オリジナリティになる部分をどのように加えるかという考え方をします。アレンジに関しては、自分の場合、トラックから曲作りを始めることはないので、すでにできている曲に対してどのように世界観の幅を広げることができるかということを基準に、やはり既存曲のジャンル感、手法、音の質感などを参考に、具体的な方向性やコンセプトを決めていくことが多いと思います。先ほどの例えで言えば、ストーリーやセリフに対して、物語の設定や背景などを決めていくような作業、というようなイメージです。
今回の「colourful things」のアレンジに関しては、コンセプトと言えるかはわかりませんが、ポリリズムを採用していて、左右に配置したギターが、1回目の間奏以降、8小節の中で2音→3音→4音→5音のフレーズに進行するように作っていて、イメージが単純→複雑に徐々に段階的に変わっていくようにしています。ポップな曲ではまずやらない手法ですが、今回はミニマリスティックな構成の中でどのように景色が描けるかというところで、こういった手法も取り入れてみました。
横川: 生演奏と打ち込みの違いや、ミキシングについてはどうかしら?
クニ: 今回の「colourful things」は全部生演奏で、Coba-Uの「SF」「ハイファイ」は歌以外全部打ち込みです。生演奏では、ギターバンドの構成が特に好きで、ビートルズ、レッドツェッペリン、ポリス、スリップノットが基本的に同じ構成だと思うと、本当に表現の幅が広く、個人的に20世紀の音楽の中で最も重要な発明と思っています。打ち込みに関しては、自分が音楽に興味をもったきっかけがYMOだったことからも、自分の原点だと思っています。実際の作業では、どちらの場合もPCに向かっての作業がほとんどなので「生演奏と打ち込みの違い」を意識することはあまりないのですが、生演奏の場合、自分の演奏力はそれほどレベルが高いわけではないので、良いテイクに行き着くまでに時間がかかること、打ち込みの場合には自ずと音色の幅が広がるので、よく言えば自由なのですが、音色決めに時間がかかります。
ミキシングの技術については、それほど自信があるわけではないのですが、特に近年ソフト音源なども含めた打ち込みの技術と合わせて表現の幅が格段に広がっているところだと思っているので、知識を深め、技術に磨きをかけていきたいと思っているところです。
横川: いろいろな音楽スタイルとかサウンドを経験してきて、クニさんのサウンドに対するこだわりがあれば聞きたいです。
クニ: 聞かれてみて考えたのですが、特にこれというこだわりはないです。曲作りで常にこだわっているのはコンセプトのたて方で、サウンド的にこだわる部分はそのコンセプトによって変わってきます。あとは、こだわりというほどではないですが、三点定位のミックスが好きで、無理がない限り三点定位でミックスをするようにしています。
横川: 作ってきた曲で、気に入っているものは?
クニ: この3月にシングル2枚同時配信が予定されているシンガーCoba-Uの「SF」と「ハイファイ」という曲があるのですが、どちらも作曲、編曲、ミックスを担当しました。2曲とも数年前にライブ会場で限定販売するために作ったものなのですが、どちらもとても気に入っている曲です。特に「SF」に関しては、コンパクトにまとまった、自分が理想としているポップソングに近いものを作ることができたと思っています。尊敬するマイルスデイビスに習って、次回作が常に最高傑作になるように努めていきたいです。
横川: 「Chartreuse」は、どこから思いついて、どんな風に作ったのかしら?
けんそう: メロとしては、カーズ「ユー・マイト・シンク」と、クリスティ「イエローリバー」を合わせた感じをイメージして、仮オケはマックでガレージバンドのループの組み合わせだけで作ったんですが、デフォルトの音源がちょっとヤボったい感じだったので、横川さんが打ち込み直してキラキラ感を出してくれたので、よかったです。
まあ、2014年に最後にバンドでライブをやって以来、もう音楽活動することはないだろうな、と思ってて、2015年から6年間くらいカラオケ屋で懐かしの洋楽を歌う(英語得意でもないのに)ことしか、してなかったので、今回たまたま機会を与えていただき、けんそうが日本語で歌ってることに、本人が一番違和感を感じてるとこです! 昨年の暑い夏に、息子たちが親離れして、いきなり下北沢で一人暮らしを始め、仕事もなく、ぶらぶらしてたとこでのオファー、という絶妙なタイミングだったので、曲作りからMVまで、一気にいけましたが、年明けた今から次の曲、て言われたら、もうムリですねw。
横川: 歌詞が強力なんだけど、こういうのはスルっと出てくるの?
けんそう: これは、自己啓発本とか古くさいJ-POPにありがちなフレーズに対して、逆もまた真なり、みたいなフレーズを考えるのを普段からやってるので、割とすぐ降りてきましたね。
横川: オリジナル・キャラクターの「いぬちゃん」はどこから思いついたのだっけ?
けんそう: こどもの頃に飼っていた犬(レトリバーっぽい雑種)がモデルなんですが、絵としてはスヌーピー兄さんに似せようとして、似なかったので、より単純化して、あんな感じになりました。今は自分のアバターのような感じですね。
横川: 80年代に拘るのは、自分の青春だから?
けんそう: それも当然ですが、バブルに向かう経済成長で社会全体がフワフワしていた時代への郷愁ですかね。そして当時の残ってる映像が、初期のビデオテープばかりなので、70年代以前のフィルム時代より解像度が悪い感じなのも、よけい愛着がわきます。
横川: DEVOとクイーンについて、一言ずつお願いします。
けんそう: DEVOはずっと、自分はカウンターカルチャー側にいるものだ、と立ち位置を確認させてくれる存在で、クイーンは、それでも10年周期くらいで、ロックの王道に自分を引き戻してくれる存在ですね。
横川: 子供達を見ていて、未来の世界への提言をお願いします。
けんそう: これほど世界がネットでつながっても、意識はよけいにドメスティックになってるのが残念さがありますね。とにかく政治はどうでもいいので、次の世代は文化だけでも外国へどんどん出ていかないといけないですね。と言いつつ自分たちの世代でも、まだこれからやらないとね~。
横川: 藤本くんは「職業作家」の意識が強くて、自分のことを「アーチスト」とは考えていないのだっけ?
藤本: 改めて考えてみるとなかったです。そもそも、音楽を始めたきっかけが「セッションギタリストになりたい」と思ったことだったので、音楽にまつわる職業的な意識や、職人的な一歩引いた姿勢に最初から憧れていたのかもしれません。なので、純粋な欲求としての作りたいものはほぼありません。技術の習得や新しいものを希求する気持ち(新しい世界を開きたい気持ち)としての作りたいものはあります。
横川: 「e_」はどこから思いついて、どうやって作ったのかしら?
藤本: 最初に思いついたアイディアがあったのですが、それは出来ないということだったので、第2案として考えました。普段キャッチーなものを求められる機会が多いことの反動もありますし、制作当時、和声的な発想から逃れたい気持ちが強かったこともあります。次に、一般的な音楽は大抵機能としての側面があるものだと思うのですが、人を不安にさせる、不快にさせる機能を目指した音楽は少ないような気がしたので、ぱっと思い付きで作ってみた感じです。改めて聴くと、まだ甘いですね、もっと気持ち悪く不快にできた気がします。あと、「音楽のアルバムに音楽を提供するのは普通だしなあ」と思ったので、音楽(楽曲)の範疇から離れたものを出来れば作りたかったという気持ちもあります。
横川: 音がいいし、アンビエント・ミュージックのアーチストとして大いなる可能性を感じたのだけど、そもそも興味ないのだっけ? あと、音効的な仕事に対する興味は?
藤本: アンビエントやノイズなどは好きです。高校生の頃はジョン・ゾーンを聴いたりもしていました(当時、子供心に「自分は変わったものを聴いている」という事実が欲しかった可能性もあります)。サウンドデザインも好きです。よく「バスのブザーや信号の音まで、この世界にある人工的な音は必ず誰かが作っている」と 友人には言っています。意識されることのない音が世界にあふれているのは面白いですよね。映画などを観ていても、周波数的な発想は大事だなあと思いますし、それで人の心が動くのも面白いなあと思います。
横川: 藤本くんは作詞作曲編曲、あとギターと歌もいけるから、ポップス制作にはオールマイティなのだけど、「こういうのを作りたい」という目標はある?
藤本: 最近はよりエモーションのあるものが作りたいとは思っています(発注内容などがあるので、そうそう機会はないのですけれど)。目標はあまりないですが、ただ、全てにおいて作るのが上手くなりたいですねえ。 ホントに音楽を作るのが下手で…と思うことが多いです。最近は出来ていないのですが、新しい引き出しや知識、技術は増やしたいなと思っています。あと、もう少し主観を強く持てるようになりたいです。