Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
1994年の夏、当時やっていたMeatopiaというバンドのツアーの後ロンドンで休日を楽しんでいたら、近所のPlace Theaterでちょうどデレク・ベイリーのカンパニー・ウィークが始まるのに遭遇、初日が面白かったので全5日間、通いつめました。世界から集まった10人くらいのアーチストが、その場のデレク・ベイリーのディレクションでトリオ~カルテットで即興演奏をするのですが、その時デレク・ベイリーの音楽のやり方が本当に素晴らしいことが身に沁みました。もちろん、MMD計画で81年に来日した時から、デレク・ベイリーの音楽を耳にしてはいたのだけれど、自分が音楽を作るようになってやっとわかるようになったと思います。音楽がいろいろな伝統と革新の中で成立する中で、自由とか美しさとか喜び、共同性など、自分が抱える色々なテーマに素晴らしい光を見た、気がしたものです。小さなシアターで、終演後は入り口横のバーカウンターで気楽に出演者たちと談笑できるので、「どのくらいの音量でモニターしてるの?」とか疑問を投げつけて、直接色々話もできたのが良かったです。
ウェーベルンを聴いた後にデレク・ベイリーを聴くと、関連性が面白い。
時は過ぎて2004年、マルセイユのMIMI festivalでデレク・ベイリーに再会しました。港から20分ほど船で行く小島で開催される5日間のフェスティバル2日目のトリとして登場した彼は、すでに手根管症候群を患っていて演奏の切れとかスピードが落ちていたので(当時、わたしは単なる加齢だと思っていた)、ベテランの落語家のごとくよくわからない枕がやたら長く、本題にいつ入るかがとてもスリリング。確か15分くらいのギターソロを3セットやったのですが、2セット目くらいには詰め掛けた若者たちがどんどん帰って行く。客席はイントレで階段状に組み上げられていて、出口が演奏ステージ横にあるものだから、若者たちの足音が会場全体に「ドーン、ドーン」と爆音で響く。同時に、上空に最終便のジェット機が「ゴー」と通過して行く。3種類のノイズ演奏がトリプル・ミュージックとなって、とんでもなく面白い音楽体験でした。
終演後、帰りの船を待っていたら演奏後のデレク・ベイリーと一緒になったので「客席はこんな音響で、とても面白かった」と伝えたら、「僕も、客の足音を聞きながら演奏してたよ」というので、流石だと感心しました。
数あるデレク・ベイリーのアルバムの中でも、私はこれが一番好き。おすすめです。