Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
今回は自分のことばかり書きます。
数年来、私は ”Dan Bau” というベトナムの一弦琴を弾いています。
そして心からこの楽器を愛しています。
いつもながら発端はピタゴラスでした。
ピタゴラスのモノコードを画像検索しているうちに、出てきたこの楽器
Wikipedia ダン バウ
木の土台の上に貼られた一本のスティール弦を、右の小指あたりで軽くミュートしながらピックで上方に弾きハーモニクスを出す。そして、左端に立てられている竿を左右に動かすことで音程を変える。ハーモニクス音は、当然か細いのでピックアップがついていて、見かけにもかかわらず、エレキ楽器なのです。
基本、倍音しか出さないエレキ!
そして、この自然倍音+手加減による音律は、まさに今の私が理想とし、追い求めているものなのです。
ということで、私のダンバウ録音デビュー作、山村アニメーションのリールアジアン国際映画祭の20周年記念ショートアニメーション “Zodiac One Third” をご視聴ください。
次々と出てくる干支の動物を見ながら、その特徴に合わせてリアルタイムで演奏しました。
思ったより速く登場するので、なかなかうまくいかない。タイミングは合わせたような合わせないようなかんじ。それでいて、全体としては一筆書きのようにひとつの流れでまとまるように。
最後の効果音も全てダンバウによるものです。エレキ楽器だからできる小技ですね。
ベトナムに行ったこともなければ、ベトナム語も話せない。でもこの楽器が好きだから、むしろ自分なりの弾き方を見つけ、自分の音楽を作りたいと思っています。もちろんベトナムの音楽文化に最大限の尊敬を抱きながら。
2015年あたりから、京都中心にソロのライブ活動を始めていました。
最初はTonal Plexus 6s というカスタムメイドの微分音キーボード (SYZYGYSの微分音オルガンとは全く別物です)を使い、即興を交えた演奏をしていました。TPX6sはレゴのような鍵盤が全部で1266個並んでいて、各鍵盤を専用ソフトで個別にチューニングできます。基本のデフォルトチューニングではオクターブを205に分割し(205EDO)、最小ピッチ差は5.6セント(半音は100セント)となっています。
キーボード全体としては6オクターブあるので、かなりワイルドに微分音を鳴らせる利点があります。短いライブ動画をリンクします。
さて、このようなライブを展開しているうちに、なにか物足りなさを感じてきました。TPX6sは見た目にも面白いけれど音色が良くないことと、何よりもベロシティーが効かないため、なかなか音楽として成立させにくい欠点がありました。音がたくさんあるだけじゃ、つまらないと思うようになったとき、たった一弦のダンバウに出会い、気がついたら、TPXの手前にダンバウを設置するセッティングでライブをするようになりました。
「1200もあるキーボードに、なんでまた、”一弦” くっつけてるんですか?」
いつも出演させていただいているカフェ天Qのマスターの鋭い一言に、はっとさせられました。
ご明察。
うまく説明できない、たぶん自覚すらしていなかった音楽上の深層心理、欲望がそこに現れているのでした。
音高を細分したユニットを単位として並べていくことと、一本の弦に潜在する音を掬い出していくこと。いわば逆方向からののアプローチを同時におこなうことで、音を求めていく気持ちのバランスがとれる、というようなことなのだと思います。
”一弦”の話に戻ります。
前述のカフェ天Qでは、ソロの他に「楽団あまぎつね」という即興トリオを、沢田穣治さん(Bass,Gtr,月琴)、渡辺亮さん(Per.ビリンバウ)と、時には桑鶴麻氣子さん、バンギさんの朗読等も混じえて続けていました。
そして、渡辺亮さんの “Berimbau “ は、まぎれもないブラジルの”一弦楽器”だったのです。つまり亮さんは一弦楽器のプロフェッショナルなのです。
ビリンバウ Wikipedia
この事に気づいてから「一弦楽器が集合したらどういうことになるんだろう?」という妄想が膨らみ、企画力のある友人、植田さんに相談したところ、「やりましょう!」となり、突然、実験音楽のメッカ、神戸Big Appleにて、念願の”一弦フェスタ”が開催されることになったのです。
とはいえ、いざ 「一弦を弾く人」を探し求めて見ると?
既成の楽器としては、ダンバウ、ビリンバウ、そして沢田さんがインドの一弦楽器ゴピチャンド(Ektara)の大型を所有されていた事が判明。
Ektara Wikipedia
ここで奇しくも「一弦あまぎつねトリオ」が簡単に成立してしまいました。さて、あとは、自作楽器系、もしくは、複数弦のものをわざわざ一弦化した改造楽器群を加え、やっとなんとか総勢7名の勇者が揃いました。ありがたや~。
沢田穣治(ゴピチャンド)、渡辺亮(ビリンバウ)、ナランチャ(ゴミ箱ベース)、児嶋佐織(ゴピチャンド小)、森川訓恵(自作一弦琴)、オール電化ひょうたん (ひょうたん楽器) 冷水ひとみ(ダンバウ)
ERuKa0126さんが抜粋した動画をあげてくださっているのでリンクします。
ここにご紹介できなかった部分もとてもユニークで大変楽しいものでした。
とにかく、やれることが限定されている中、皆それぞれ必死になっていくのが楽しい。
でも必死になってもやはりできることは限られている。
でもなんとかしようとする。
でも一弦しかない。
そんな一弦フェスタは、その後、参加者の変化はありましたが、第二回第三回と続き、やがて、やはり人財不足、楽器不足でその意義が低下し、消滅しました。
その後、世界はパンデミックに。
そして私は肩を痛め腕が動かず、今はライブもお休みしてリハビリ中。
幻の “一弦フェスタ”。
いつか復活を夢見ていないといえば嘘になります。
しかし、やるなら世界規模で、どでかくゴージャスにやりたい。
一弦が制限となることによる面白みに加えて、更に、「一弦なのに」を超えた
「一弦だからこそ」の音世界の現出を妄想します。
世界中に一弦の楽器はまだまだたくさんあります。
Single String Instruments
日本にも一弦琴があります。
一弦琴Wikipedia
あちらこちらに物凄い名奏者がおられるに違いないのです。
そんな方もお呼びして、また怪しい自作楽器系の超奇人の方も大募集して、
大編成の一弦フェスタにしたいのです。
たくさんの”一弦”。
それでも地味だったりして?
いや、そんなことないと思うんですよ。