Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
引越しをする度になんか物って少しずつなくなりませんか?大事に取っておいたはずの音楽雑誌のバックナンバー、貴重な日本語吹き替えの洋画劇場を録画したVHSテープなどなど。そういうのって引越しの時に箱ごと消えてしまってるんですかね。
そんな引越しによる紛失物の中で最大の損失が自分のアマチュア時代のデモテープ。他人のレコードは同じものを何枚買うほど執着するくせに自分の作ったものにはあまり執着心が沸かなかったのも紛失の一因かも。
紛失してしまったデモテープたちの中でとりわけ叶うなら取り戻したいと思っているテープはやはり僕が最初に作った作品集です。まだ京浜兄弟社の面々と出会う前、たった一人で音楽と戯れていた頃。作品集といっても中身は全曲洋楽のカバーだけ。大学1年の時に必死にアルバイトで貯めたなけなしのお金でようやく買い揃えた自宅録音用の機材でまずは機材の使い方や曲の構造を理解しようと好きな曲をひたすら完コピして勉強してたんです。
加えて当時とにかくXTCが大好きだったので、アンディ・パートリッジのインタビューかなんかで80年代中盤にデイブ・グレゴリーが趣味で”Strawberry Fields Forever”の完コピを自宅の4チャンMTRで作っていて驚いた…という記事を見て、「よし!おれも真似しよう!」と始めたことでもあります。この時のデイブ・グレゴリーの趣味の完コピワークは今ではColin's Hermits名義できっちりリリースされて気軽に聴かれるようになっているので興味を持たれた方は是非検索を!。
その当時の僕の機材はミキサーがYAMAHAのCMX100というカセット4チャンMTRにKORGの電子ピアノ、ドラムはKAWAIのR-100だったかな。それと古道具屋で買ったアコギ、エレキベース(メーカ不明)とエレキが大学の友達から借りたフライングV(笑)。シーケンサーやシンセの類は何もなしで、全部自分で耳コピして、自分で手弾きで演奏して作ってました。
面倒くさいけど楽器の練習にもなるしいいかな?って考えてた部分もあって、言ってみれば自分一人でバンドを始めたようなものですね。各パートの自分と「次はなんの曲やる?」と脳内会議を開いてレパートリーを決めていく感じ。根暗ですよね。
ピアノはずっと弾いてたし大学のジャズ研で弾いてもいたので問題ないとしても、ギター、ベースは苦労しました。
シーケンサーなんてないから間違えたらやり直し。ギター弾きながら一人でパンチインとかできなかったから全部弾き直さないといけなくて大変だった覚えがありますね。
まあそんなこんなで自分が演奏できるレベルの選曲に限定されながらも、少しずつ音が重なって曲になっていくのが本当に楽しくて楽しくて、まさに寝食を忘れて自宅録音に夢中になっていました。思えばあの頃音楽と過ごした日々が一番幸せな時間だったのかもしれないです(笑)。
というわけで本題、どんな曲をやっていたのか。今となっては自分用のマスターテープもなくなってしまったので聞いて確認することができないのだけれど、時々レコードを聴きながら「あ、この曲、あの時やったわ」と突然思い出すこともあるんです。
忘れないうちにそれをいつかまとめておきたいと思ったのが今回のコラムの趣旨です。こういう曲たちをやってました!はい、どーん。
1.Tonight you belong to me / Patience & Prudence
2.Leave my kitten alone / The Beatles
3.Mr Tambourine Man / The Byrds
4.Do you believe in magic? / The Lovin' Spoonful
5.Open my eyes /Nazz
6.I saw the light / Todd Rundgren
7.Waterloo Sunset / The Kinks
8.Drifter / Roger Nichols& The Small Cicle of friends
9.Rock and Roll Lullaby / B. J. Thomas
10.Caroline no / The Beach Boys
11.C'mon Marianne / The Four Seasons
12.Not to touch the Earth / The Doors
番外編
13.Be my baby / The Ronettes
14.Rydeen / YMO
まあ、XTCやトッド・ラングレンの『Faithful』に憧れる19~20歳の青年の選曲としてはごく真っ当なものかな。1曲目に作ったのは忘れもしないPatience&Prudenceの「いちごの片思い」その当時は歌ってくれる彼女もいなかったのでテープの回転を早回しで自分の声を女性キーに変えて歌ってましたが、やってみてそれが「きもい」ということをまず学ぶわけです。自分の女体化はきもい!そういうことを経験的に学びながら大人になっていくというわけですね。2曲目に作ったのもよく覚えています。”Leave my kitten alone / The Beatles”です。これを作ってた時期は丁度世の中はお正月で、実家にも帰らずに一生懸命ジョン・レノンっぽく歌ったり、ギターソロを弾いたりしてとても楽しかったのを覚えてます。そこから先はどういう順番で作ったか、もうあまり覚えてないので順番は適当、思い出した順かな。”I Saw the light”でToddのファルセットコーラスが入るところをファルセットにせずにテープの速度調整で虫声でやってしまって、せっかくの名曲がバカ丸出しになってしまったり(まあそれはそれでチップマンクス的に面白いっちゃ面白いのかもしれないですけど)。ロジャニコ、”Drifter”なんてA&Mの最初のCDが出てから多分まだそんなに経ってない時期じゃないかな。確かSCOF本体のCDじゃなくてロジャニコ作品集みたいな方にだけ入ってた記憶が…。最近亡くなられたB.J.トーマスの”Rock and Roll Lullaby”はこの中でもかなり後期に作ったものでクオリティも大分上がって自信作でした。ただ、まあ歌ってるのが僕なのでそこはもうどうにもならなかったんですが、バリー・マン作曲の今でも大好きな曲です。あとフォーシーズンズの”C’mon Marianne”なんてよくやったよな~ってびっくりしますね。「ほんとかよ」って。でも確かに作った覚えがあるんです。BB5の”Caroline no”はあのアルバムの中で一番簡単だったから選んだはず。とはいえハル・ブレインがペットボトルをリムショットがわりに使ってた事とか真似して再現しようとそれなりに重箱の隅をつつくような作業はしてたかな。最後にドアーズの”Not to touch the Earth”のドラムの打ち込みまでやったところで、「もう秀作はいいから自分のオリジナルに挑戦してみよう!」と思って途中で作業を中断。なのでドアーズだけは完成してません。そして作り始めた自作曲は思いっきりNazzのOpen my EyesとビートルズTaxmanを足してよりサイケ度を深めたような曲。それを持って京浜兄弟社主宰のデモテープバトルロイヤルの門を叩き、今日に至る…というわけです。
番外編の2曲はそれからしばらくして機材が増えてから作ったもので、まあ一度はやっちまう通過儀礼のようなものですね。
“Be my baby”は確かAKAIのサンプラーを買って「音がよくなった~!よし、Wall of Soundに挑戦じゃ」という意味のわからない衝動でやりました。書くのも恥ずかしいYMOは単純にシーケンサーとシンセ(QX7とTX81Z)を初めて買った試作でやっちまったことで今では後悔しているが、結構いいクオリティだったはず。
まあ、人に歴史あり…ということで、思い返せばあの頃みたいに寝食を忘れて夢中で音楽を作ることはなくなり、締め切りに追われて「寝たい寝たい」と朦朧とする頭でとにかく曲数揃えようみたいな今の自分を振り返り、引越しのたびになくしてたのは音楽を楽しむ心なのかなあ…な~~んてカッコつけて綺麗にまとめてみようかと思ったけど、いや、今のが全然楽しいっす。劇伴でいい曲できたら踊りながらミックスして朝を迎えるなんてふっつーにやってるわ、今でも。