Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
少し前にLIP CREAMというバンドのギタリストの訃報をネットニュースで読んだ。LIP CREAMはその昔何度かライブを観たことがあるバンドでふと当時のことを思い出した。
東京の西の方で高校に通っていた頃、バンドや音楽を介した友人関係というのがあってその中の1つにハードコアパンクをやってるコミュニティがあった。そこではほとんどの人が高校をドロップアウトしていて働いたりプラプラしながらゴリゴリのハードコアバンドを幾つかやっていた。『俺たちスウェーデンで人気あるんだぜ、今度スウェーデンのバンドと7インチのsplit盤出すんだ!』とか言っていたりして、当時普通の高校生だった自分にとってはかなりエキセントリックで面白い人達だったので、たまに彼らのライブやたまり場に遊びに行って音楽の情報や彼らの『破天荒な話』を聞いたりするのは自分の日常とは少し切り離された世界に触れることができて楽しかった。
僕自身は音楽的にはハードコアパンクにどっぷりという訳ではなかったけれど、彼らに教えてもらった中には面白いバンドがいくつかあって、そういうバンドはレコードやテープを貸してもらったりライブを観に行ったりしていた。LIP CREAMもそんな感じの流れで観に行ったのだった。会場のライブハウスでは喧嘩に巻き込まれた事もあったりしておっかなかったな(笑)。
そのハードコアパンクのコミュニティの中でも強く印象に残っている人にN君という人がいた。
聞けば、彼はどういう理由だったかわからないが両親はいなくて、団地に弟と2人だけで住んでおり、もう長いこと電気もガスも止められていてずっと夜はロウソクで暮らしている。とのことだった。もちろん学校になんか通っていなくて仕事もやめたばかり、『今日もまだ朝から何も飯食えてないな』、みたいな事をさらりと言う。
何よりも自分と同年代の16,17才の人がそういう状況にも全く動じずに、リアル・パンク・ライフを送っているという事に普通の高校生だった僕は『え?ここロンドンじゃないよね?日本だよね?そんなことってある?』と衝撃を受けたのであった。
真っ黒なレザーのライダースジャケット、ブラックスリムのジーンズと編み上げのドクターマーチンのブーツというのが彼のお決まりのスタイルで(というか彼がそれ以外の格好をしているのを見たことがない。)口数が少なく、隅の方で皆の話を聞いてフフッと少し笑っている。あまり人の目を見て話さないおとなしい人といった印象で、楽器はベースをやっていた。
彼がやっていたバンドのボーカルから連絡が来て、ギターが急に辞めて(しょっちゅう喧嘩するのでメンバーがすぐ辞める)次のライブのギターがいないからお前がヘルプでギター弾いてくれ、と頼まれて彼がいたバンドでも1度ステージに上がったことがあった。その時も彼は黙々とベースを弾いていた。ライブが終わって楽屋でも淡々としていたし、彼が何かに興奮した様子というのが記憶にない。彼はいつも黙々と、そして淡々とした人だった。
コミュニティにいた他のエキセントリックな人々の『破天荒さ』とは真逆の彼のそうした淡々とした『日常性』の様なものが妙にリアルで(逆に少し狂気すら感じて)強く記憶に残っているのかもしれない。
その後僕は受験して大学に進学したりして地元にいた彼らとの接点は徐々になくなり、彼らがどうしているのかはわからなくなっていった。
それから10年くらい経ち大人になって一度だけ偶然街でN君を見かけたことがある。
彼は真っ黒なライダースジャケットにブラックスリムジーンズという以前と全く変わらないいでたちで高円寺のガード下にぼんやりと立ってどこか遠くを見つめていた。
17歳の頃と全く変わらないその雰囲気、いでたちに少し感動すら覚えて話しかけようかどうか迷ったが結局話しかけなかった。
それはほんの数秒の出来事だったが、言葉は交わさなくともその一瞬で彼の10年間を垣間見る事ができた気がしたしそれで良かったと思う。
それ以来彼を見かけたことはない。
こちらは12年ぶりに届いたKings Of Convenience新譜。相変わらず最高。