Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
左右の耳で、音色が違うのです。左右の目で色合いが違うのは小さな頃から気がついていて、私の場合左は青っぽく、右は黄色っぽく見えます。明るい戸外で比較するとわかりやすい。
耳の聞こえ方に差があるのをはっきりと意識するようになったのは、音楽家の宇都宮泰くんと一緒に作業をするようになった時、マイクの立て方を教わってからです。マイクの位置で音を確認するときは、片方の耳でマイクの指向性に合わせて音を聴く。マイクがモノラルなら、耳も片方でというわけです。このとき、私の耳は左右で少し差があって、左はハイファイでコンデンサーマイクのよう、右は大きな音に強くダイナミックマイクのよう、なのをはっきり意識しました。ロックバンドばかりやっていて、右耳が劣化していたかもしれない。ともあれ、この耳のニュアンスの差はいまも同じです。なので、ヘッドフォンの左右をひっくり返すと同じ曲がかなり違って聴こえます。ドラムやベースが左右に分かれている60年代のジャズやロックは、2度楽しめる。ミキシングの時に、時々左右をswapして音を確かめるのは、漫画家の人が画をひっくり返してデッサンの歪みを確認するのに近いかもしれません。
私は左利きで、手足は左が敏捷、右が鈍重(ただし力は右のほうがある)、音楽演奏では左が走り右が遅れます。耳も同じようで、左耳が利き耳のような気がします。「えっ」と聞き直すときは、左耳を相手に向けるし。ただし、ドラムを左耳で聞くために、ドラマーの右側に立つことはしません。スネアですぐに左耳がやられてしまうのが嫌なのです。
さて、ご存知のように、人が音を聴くのは耳だけを使っているわけではありません。高調波は肌で聞くそうだし、低周波は腰から下、ローエンドは膝に響きます。クラブで低周波を浴びすぎるとトイレに行きたくなりますよね。低周波治療を提言したフランスのトマティス博士によれば、背骨の上から下に向けて共鳴する音の周波数が決まっていて、頭蓋骨の8kHzから仙骨の250Hzまで、だんだん下がっていくのだそうです。耳が聞こえなくなったベートーベンは、特製の指揮棒でピアノと顎をつなぎ、骨伝導で曲を聴いていたのは有名。最近、骨伝導ヘッドフォンがどんどんよくなってきているそうなので、ハイエンドの製品を期待しています。
最後に、音治療の例を一つ。ロシアのフェスティバルで一緒になった ベルベルの女性コーラスグループ(Les Bnet Houaryat)、多いときは5人でパーカッションを叩きながら強力なハチロクのコール&レスポンスをするのですが、彼女たちの生業は、半分はパーティー盛り上げ要員、半分は民間の霊媒師(沖縄のユタにとても近い)です。心の調子を崩した人を取り囲み、輪になって回りながら演奏して、相手をリズムに乗せてトランス状態にし心と体のバランスを取り直して治療するのですが、なかなかトランスしない患者さんへの最終手段は、パーカッションに使っている金属の皿(韓国のサムルノリで使うケンガリそっくり)を患者の頭に乗せて叩きまくり、時にオフビートのおかずをまじえると、そこで精神が解放される(というか、骨伝導の高音がうるさすぎて気を失う?)、なんとも派手なパフォーマンス治療です。