Toyroメンバーのリレー・コラムです。ぜひ、お楽しみください!(代表・横川理彦)
今年、こんな噂が流れたが本当なのだろうか?
「ヒットチャート常連エンジニアはノイズ音を持ち歩いていて、ミックスの時にそれを加工して混ぜているらしい」
英語圏のポップスの話であり真偽のほどは確かめようもないが、実際に有り得ると思えるから噂として成立したのだろう。
思い返せば数年前、イントロの抜けの良さを聴けば、その曲が流行るかどうかが分かる時代があった。イントロの高音域のヌケの良さが、その後続く楽曲全体のポピュラリティを象徴していた。音質が楽曲を担保する、というのはちゃんちゃら可笑しな話ではあるが、高級菓子のパッケージのクオリティが中身を保証するのに似ていなくもない。
それに対して「ノイズを混ぜる」というのは、逆行した行為である。しかし、上述したような噂が流れるほど、ヒットチャートの音の傾向は変わった。具体的に言えば「クセのある中音域で耳を惹く」ようなポップスが増えたのだ。これはなぜだろう。
単にこれまでの音に飽きたのかもしれない。キラキラした音に疲れたのかもしれない。もしかしたらカナルタイプのヘッドホンで聴く中音域の解像度が上がったからかもしれない。
そういえば10年ほど前には、コンビニで派手に聴こえるミックスが制作サイドの合意を得られる到達点だった。今はAirPods Proでもないし、何が市場に影響するマジョリティなのだろうか。あ、ノートパソコンか。だとすれば、中音域に主眼があるミックスというのは附に落ちる。
今年の中音域の傾向としては3つ。アナログ的でノイジーな音質、極端にハイが無く奥まっているが故に気になる音質、そして中低域に重心のあるリバーブだった。
もちろんこれは個人的な見解だ。人は自分の見たいようにしか世界を見ない。自分のいる位置から、自分の好きな補助線を引いて、世界を掌の上に縮尺して眺めている。それは承知の上。
自分の場合、補助線は周波数だ。それをちゃんと聴き分けたいがため、2年前にスタジオを作ってしまった。とも言える。
さて次の流れは何だろう。自分はピッチだと踏んでいる。シンセのピッチを時間軸で揺らして温かみを与える手法は、ギスギスとした心をホッとさせる。オケのチューニング440Hzよりも、歌だけが例えば443Hzでチューニングしたように上擦っている曲にも最近出会った。ピッチか。だとすれば自分は何をしようか。
さて今年聴いた曲というお題だが、自分はここ20年ほど同じフォーマットで毎年纏めているので、今回もそれで代用させて頂きます。その年に好きになった穏やかな曲のプレイリスト。一部の友達からは督促が来る程度に人気がある。仕事をしながら聴くのに良いのだそうだ。音楽を聴きながら出来る仕事。我々の仕事では絶対無理なので羨ましいなぁ…。